時を超えてなお、瑞々しい魅力を放つ稀代の恋愛小説は、
やはりこのようにして生まれたのか!
『源氏物語』は私小説ではない。同時代の清少納言や和泉式部らと同じ、教養豊かな受領階級の娘である作者・紫式部も恐らく、幼い頃から父親の蔵書である日本や中国の古物語や詩などを読み散らして育った文学少女だったのだろう。彼女は20代後半で父親ほど歳のはなれた藤原宣孝と結婚し、娘をひとり儲けているが、夫は3年ほど後にあっけなく病死している。何しろ男勝りのインテリでプライドの高そうな彼女のこと、寡婦になったからといって通ってくる男がいたとは思えない。『紫式部日記』の回想によれば、夫の死後、自分は物語を書いて周りの友人たちに読んでもらうことで共感を得て、それを励みに、この浮き世をなんとか生きながらえてきた、とある。紫式部にとって、創作はいわば彼女なりの現実逃避の世界として、リアルな意味を持っていたのだろう。そんな彼女の評判を聞きつけ、後宮で帝の愛情争いに苦戦している娘・彰子のサロンの目玉としてスカウトしたのが、時の権力者・藤原道長であり、彼が紫式部をして書かせたのが『源氏物語』だと言われている。しかしなぜ、恋愛体験に乏しく宮仕えの経験もない孤独な女性が、あのような愛憎渦巻く、ドラマティックなラヴストーリーを書き上げることができたのか…。
そのミステリーに挑んで、稀代の恋愛小説が生まれていく秘話を斬新な発想で描いた映画が『源氏物語 千年の謎』である。監督は『愛の流刑地』(2007)で衝撃のデビューを飾った鶴橋康夫監督。本作では天才女流作家・紫式部にとって創作の原動力となる自身の〈秘められた恋〉と物語の主人公である光源氏の〈華麗なる恋〉という二つの世界が同時進行し、時に激しく交錯し、展開していく。特にある女性の燃え上がる〈情念〉が生き霊となって強大なパワーを得て、世界の枠組みを超えて大暴走せんとするシーンは圧巻である。
そして〈源氏映画〉といえば、いつの時代もその絢爛豪華なキャスティングが大きな話題の的。今回も光源氏役の生田斗真を筆頭に、真木よう子、多部未華子、田中麗奈ら今をときめく女優陣を女君たちに配し、紫式部を中谷美紀、道長に東山紀之で完璧に固めた。さらに謎の陰陽師・阿倍晴明に窪塚洋介を起用。弘徽殿女御役である室井滋の怪演と、出番は少ないが王命婦役の佐久間良子も光る。
また、DVDやBlu-rayのメリットとして、何回でも再生して細部を詳しく観たくなるのが平安絵巻の世界さながらの豪華な衣装と美術セット。カリスマ衣装デザイナーの宮本まさ江が、それぞれのキャラクターや登場シーンの心情に合わせて選んだという細部のこだわり、ベテラン美術監督の今村力が琵琶湖のほとり1万平方メートルの敷地にオープンセットで忠実に再現した道長の豪邸〈土御門邸〉は、共に必見だ。