ジョン・ケージ生誕100年、ドビュッシー生誕150年、そしてフレデリック・ディーリアスも生誕150年!
ドビュッシーの生誕150年、ジョン・ケージの生誕100年/没後50年の大きさの影に隠れて目立たぬままだが、今年はフレデリック・ディーリアスの生誕150年にあたる。あらためてくりかえすまでもなかろうが、ドビュッシーとディーリアス、同年の生まれなのだ。
エルガーが1857年、ヴォーン=ウィリアムズとホルストの1872年1874年、それらのあいだにくるのがディーリアス(1862-1934)だけれど も、この人物、イギリスに生まれたものの、両親はドイツ人、しかも本人にしてからが、ほとんどこの島国にはいつかなかった。音楽がやりたいとおもったもの の、父親には反対され、10代の終わりにはオレンジ栽培をしたいと合衆国のフロリダにわたってしまう。この地で音楽を学び、また教え、大作《フロリダ》も 書きあげる。ようやく父親から許しがでて、今度はドイツへと飛び、26歳まで2年ほどライプツィヒ音楽院で学ぶ。その後、ノルウェイを経て、1888年に はフランスに移り定住してしまう。ほかの誰よりも、たとえば《春はじめてのカッコウを聞いて》や《夏の庭で》で、ある「イギリス」のひびきを感じると言わ れたりもするディーリアスが、実際にはイギリスから距離をとっていたのはなかなかに不思議だが、同時にまた、この距離こその近さなのかもしれないとおもわ ないでもない。
レコード店の棚に18枚組のボックスが安価におかれていると、うれしいとも悲しいとも、何とも複雑な気分になるのを抑えることができない。トーマス・ビー チャムやジョン・バルビローリのLPで親しんだ演奏、ジャクリーヌ・デュ=プレとマルコム・サージェントによる《チェロ協奏曲》、ユーディ・メニューイン とエリック・フェンビー(晩年の作曲家の文字どおりの片腕となり、その姿はケン・ラッセルの『ソング・オブ・サマー』として映画化された)による3曲の 《ヴァイオリン・ソナタ》。もちろん録音のほとんどは1960-70年代。80年代前半がわずかに含まれるという程度。しかし、90年代や2000年代の 録音もわずかとはいえ収められ、なかには《ピアノ協奏曲》や《弦楽四重奏》のような、これまで(わたしが)聴いたことのなかった作品も含まれている。
オペラを含む18枚はなかなか聴きとおすことができないのだが、しかし、ディーリアスの音楽が、とりあえずこのようなかたちでそばにあるというのは、不思 議な慰めになる。そう、不思議な、である。この不思議さをともにしていただけるひとに、この作曲家の音楽を聴いて、聴きつづけてもらいたいとおもう。