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Pat Metheny『ユニティ・バンド』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/07/11   11:56
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:青木和富

メセニー降臨

パット・メセニーの新作は、久々のグループ・アルバムだ。『オーケストリオン』『ホワッツ・イット・オールアバウト』とユニークなソロ・アルバムが続いたので、これは2008年の『デイ・トリップ』以来、実に4年振りということになる。そして、これは大切な第一印象なのだが、実に楽しそうな雰囲気が演奏から伝わってくる。ソロ演奏、あるいは単独の創作行為は、中身が濃いけれど、独善的な世界とも言え、共同作業による音楽のダイナミズムが失われることになる。むろん、それが創作の障害になると考えるからこそ、ソロなのだが、その孤独な世界に住み続けたメセニーが、ようやくそのモノトーンの内側の世界から、様々な色が飛び交う外に飛び出してきたという感じなのだ。メセニーの才能が素晴らしいのは、実はこういうバランス感覚と言ってもいい。

新しいバンドと言っても、基本は『デイ・トリップ』の延長で、メセニー・グループの再開ではない。メセニー・グループは『ウェイ・アップ』の超重量級世界まで突き進んだので、それを立ち上げるのは、さすがにしんどいのだ。その点、こちらは軽装のハイキングという感じなのだが、ただ、この楽しい山登り仲間に、サックスという珍しい新メンバーが招かれている。それとクリスチャン・マクブライドの変わりに、その弟子筋というべきか新人のベン・ウィリアムスが抜擢されている。

メセニーが楽しんでいる様は、たとえばここでアコースティック・ギター、ギター・シンセ、ピカソ、さらには簡易版オーケストリオンといったあらゆるメセニーの道具が次々と駆使されていることからも分かると思う。何か暗い部屋に入れられていたものが、全部庭先に引き出され、太陽の光の中で声を上げているという感じだ。アルバムは冒頭からラストに向かって一気に走り出す。この休みなしのメセニーの創作のダイナミズムは、まったく変わらない。何とも元気なメセニーだ。

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