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Project UNDARK&Dieter Moebius『ラジウム・ガールズ 2011』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/07/22   21:24
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:久保正樹

Phew、小林エリカ(漫画)+メビウス(クラスター)からの痛烈な一撃

2010年、16年ぶりにソロ名義での作品『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント(万引き)』をリリースし、その後も精力的な活動──それは驚くほどのタイミングで正確に意表をつく──を続けるPhewが新プロジェクトを始動した。本作のパートナーでありイラストも手掛けたマンガ家・小林エリカとの会話の中に出てきた「ラジウム・ガールズ」(1917年頃、ニュージャージーのラジウム工場で夜光塗料の塗装作業中に被爆した女子工員)の存在から着想を得て、瞬間的にコンセプトができたというこの作品。それはPhewにとって、暗闇から語りかけてきた「宿命の女たち」との運命的な出会いといったところか。

そんなラジウム・ガールズの固有名詞を配した曲が並ぶ本作。Phewと小林によるテキストは、彼女たちの言葉を口寄せのように情念的に語るのではなく、フィクションを織り交ぜ、色とりどりに夢見る女の子たちを描く。それはフラッパーの時代を生きた女の子たちの青春、そして高給取りで目一杯お洒落をした女の子たちの淡い記憶であり、かつてマリ・キュリーが「妖精の光」と呼んだラジウムのように気高く主張し、妖しく発光する。

そしてもう一人の主役は音楽のディーター・メビウス(Cluster)である。Phewといえばこれまでにもカン、DAF、ノイバウテンのメンバーなどドイツの重鎮と共演してきたが、メビウスのシンプルで奥行きのある電子音と無機質な工業ビートとの相性もばっちり。さまざまな声と重厚なエレクトロニクスが溶け合い、じつに軽妙でユーモラスに聞こえるから不思議である。

Phewの本質である声に立ち返り、さらにその領域の向こう側をサラリと見せてくれる本作。ゲストに後藤まりこ、アチコ、飴屋家のコロスケとくるみちゃんを迎えたラジウム・オペラはさまざまな抑揚と角度から「妖精の光」を導き「ラジウム・ガールズの音」を拾い集める。そう、それは「夢のように楽しかった」記憶であり、同時に私たちが知っていたはずの「もう変わってしまった世界」の記憶である。

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