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加藤りまが奏でる〈ローカル・ゴシック・フォーク〉

連載
岡村詩野のガール・ポップ今昔裏街道
公開
2012/08/24   15:40
更新
2012/08/24   15:40
テキスト
文/岡村詩野


OkamuraShino



ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第3回は、地方特有の景色や空気感を歌に滲ませる加藤りまを紹介します



二階堂和美のブレイクがひとつの契機となったのか、青葉市子、Predawn、mmm、見汐麻衣、柴田聡子、平賀さち枝、山田杏奈、aoki laska、田中茉裕……と、近年はソロの女性アーティストの活躍がとにかく目立ちます。月このコラムでご紹介した安藤明子も、京都に暮らしながら活動するシンガー・ソングライター。アコギや鍵盤ひとつあればどこでも歌いに行ける身軽でカジュアルなスタイルが、万策出尽くしたと言われる時代にフレッシュな新風を吹き込んでいることは間違いないところでしょう。

ですが、いまから20年ほど前、そう、90年代にはなぜか女性2人組というスタイルのユニットが多かったような気がします。奈良に暮らす女子高生ユニットとして人気を集めたネロリーズ、大阪の老舗レーベル・GYUUNE CASSETTEから作品を出していたほんわかデュオのメンボーズ、感受性豊かな大人っぽい音作りで話題を集めた滋賀県在住の月下美人……そうそう、カヒミ・カリィと嶺川貴子によるファンシー・フェイス・グルーヴィ・ネームはその先駆けだったでしょうし、PUFFYの登場はその象徴だったかもしれません。

そのなかでも海外のインディー・アーティストとシンクロするかのようにしっかり時代を捉えていたのが、当時まだ女子高生だった加藤りまと本間紫織によるストロオズでした。彼女たちはちょうど当時のUSインディー・シーンの主流だったベッドルーム・ポップ~ホーム・レコーディングの動きと連動したようなローファイ・ポップスを、まだまだ頼りない手つきながらも見事に実践。同じくひとりで音作りをしてしまえるキャット・パワーやベン・リーらと並べて聴いてもまったく違和感のない作品を提供してくれていました。キティ・クラフトやクリーン・エックスガール・ワンダー(懐かしい!)らも参加した世界中のインディー・バンドを集めた99年のコンピ『Pop In Clap』(現在廃盤)に日本代表で参加していたこともあります。

残念ながら2000年代初頭にストロオズは活動を停止してしまいましたが、近年、加藤りまがソロで活動を再開。2010年に行なわれたジュリー・ドワロンとマウント・イアリ、シャロン・ヴァン・エッテンの来日公演のフロント・アクトを務めたり、シャロン・ヴァン・エッテンの松本公演などを共にサポートした盟友のASUNAが運営するカセット専門レーベル=WFTTapesから作品を発表したりと徐々に身体を暖めてきていました。そして、そんなウォーミングアップも十分に、ソロ名義としては初の全国流通作品となるシングル“Harmless”を、同じくASUNAのレーベル=aotoaoから今年6月にリリース。改めて彼女の歌声と再会することとなったのですが、10~15年前の横顔と変わらない……というか、一貫したその美意識にまったくブレがないことに感動させられたのです。

ストロオズ時代から洋楽指向が強かった彼女ですが、ソロで彼女がやろうとしているのはまさに彼女がサポートしたジュリー・ドワロンやシャロン・ヴァン・エッテンにも通じるアシッド・フォーク・スタイルの歌。女性シンガー・ソングライターにありがちな〈和やかで愛らしい〉という感覚とはむしろ対極にある、サンディ・デニーやヴァシュティ・バニヤンさながらの、どこかにドロリとした死臭さえ漂うほどの翳りと淋しさを携えた歌――雰囲気だけに流されないギター・テクニックや丁寧にコードとメロディーを絡ませたソングライティングが、何度も洗ったことで良い風合いの柔らかさになったリネンを思わせる加藤の歌声に黙って寄り添っています。

大都市にはない、地方の風景に見え隠れするダークでブラッディーな匂い――オルタナ・カントリー、ゴシック・アメリカンと呼ばれる音楽の礎になっているのはそうした感覚といわれていますが、東京から距離を置いて活動する現在の加藤りまの歌は、まさしくそうした米国産の動きとシンクロするものです。日本にも〈ローカル・ゴシック・フォーク〉という音楽があるとすれば、それこそが加藤りまの棲む世界。地方の穏やかで厳しいモノクロームの景色のなかに生きる歌がここにあります。