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Adriana Calcanhotto『Microbio Vivo : Multishow Ao Vivo』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/08/29   15:11
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
text:渡辺亨

来日公演を観た人も、そうでない人も必聴・必見!のライヴ盤

バックは、ギター、コントラバス、ドラムスという編成のコンボ。このような小編成で、しかもドラムスはスネアと小さめのバスドラムのみ。ステージの上には大掛かりなセットどころか、人目を引くものは一切ない。そして、アドリアーナ・カルカニョットをはじめとする4人のミュージシャンの衣装は黒。昨年11月2日に東京のよみうりホールで観たアドリアーナ・カルカニョットのショーは、このようなミニマリズムに貫かれたものだった。にもかかわらず、このうえなく豊潤な音楽体験を堪能させてくれた。まず歌と演奏が一級品だった。加えて、シアトリカルなパフォーマンスと、ちょっとした創意工夫に富んだ演出も。映画『ストップ・メイキング・センス』に記録されたトーキング・ヘッズのステージのようにきわめて洗練されていて、さりげなく優雅で、しかもユーモアすら織り込まれたショー。個人的には、2011年屈指の来日公演と躊躇せずに断言できるが、あの空間に居合わせた人なら、きっと頷いてくれるだろう。

『Microbio Vivo : Multishow Ao Vivo』は、来日公演の約2週間前の2011年10月15日にリオ・デ・ジャネイロで行われたショーの音源を収録したライヴ盤である。演奏曲目も、ドメニコ・ランセロッチ(ドラムス)、アルベルト・コンチネンチーノ(コントラバス)、ダヴィ・モライス(ギター、カヴァキーニョ)といったバンドのメンバーも、来日公演の時と同じだ。CDなので、アドリアーナが小道具(ナイフと皿、ドライヤーなど)を使っている姿や、《タゥン・シッキ(とてもシック)》での、あの素朴でありながら、新鮮な感動をもたらしてくれた紙吹雪の演出を見ることはできない。けれども、本作を聴いていると、来日公演で味わった興奮と感動がまざまざと甦ってくる。来日公演を見逃した人は、これを聴くと、よりいっそう後悔の念に苛まれるかもしれない。そんな罪作りなアルバムでもある。