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ジョージ・バーガー『CRASS』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/09/07   15:02
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
text:久保正樹

パンク/ハードコアの象徴にして最大の謎、クラスのリアルを伝える評伝の日本語訳版

クラスとはいったい何だったのか?  77年から84年まで活動し、そのポリシーある匿名性や神秘的な共同生活/スタイルからこれまで多くの謎に包まれていたアナーコパンク・バンド、クラス。そんなバンドの発生から解放までの歴史を丁寧に紡ぐ評伝『The Story of CRASS』。英語版が2006年に出版され、同年にオランダでバンドのドキュメンタリー映像が制作、さらにここ数年の間にすべてのアルバムがリイシューされ、日本でも「DOMMUNE」でアナーコパンク周辺の特集が組まれるなど世界各国でクラス熱が高まるなか、いよいよ待望の日本語訳版の登場である。

DIY、反戦、アンチ物質主義、核廃絶運動、動物愛護、フェミニズム、アンチ・キリスト、アナキズムの復興……などなど。彼らにまつわるシリアスなキーワードと、アンチ・サッチャーのスローガンのもと吹き荒れる当時のパンク・シーン(すでに形骸だけが息をしているだけの)が紐解かれていく箇所も興味深いが、60年代後半にペニー・リンボー(ドラム)が占拠したロンドン郊外の田舎のコテージ〈ダイアルハウス〉と、そこから広がるコミューン〈クラス〉の発生、彼らのオルタナティヴな共同生活の実情が克明に記されていて面白い。またあの有名なモノクロのシンボルマークが日本の家紋に影響を受けていたこと、スティーヴ・イグノラント(ボーカル)がデヴィッド・ボウイやポール・シムノンに憧れていたこと、メンバーがNYで共演したジェームズ・チャンスに腹を立てて蹴りを入れた話、一つ上の世代のギタリスト2人がハゲていたことがクラスに重みを与えていた、なんてくだりなど思わず笑ってしまうようなエピソードも盛りだくさんである。

黒に染められたファッション、エッジーなステンシル・グラフィティ、ギー・バウチャーによるダダイスティックでコンセプチュアルなアートワーク、マルチメディアを駆使した攻撃的な戦略も手伝い、いまだに世界中の人々に影響を与え続けるクラスの音楽と思想。現在も〈ダイアルハウス〉での生活を続け、DIYを実践するペニー・リンボー。彼が語る一貫した思想の正当性と、赤裸々に振り返る反省から学ぶことは少なくないだろう。右でも左でもなく。暴力的ではなく情熱的に。体制や偏見と戦いながら彼らが提示した開かれた怒り、美しいヴィジョンはいまなお我々に多くの問いかけと行動へのきっかけを投げかけてくれる。