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JOHN FRUSCIANTE

連載
360°
公開
2012/10/16   13:45
更新
2012/10/16   13:45
ソース
bounce 348号(2012年9月25日発行)
テキスト
文/山口智男


ジョン・フルシアンテは変わったのか? 変わっていないのか?



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それまでのソロ・キャリアを集大成したとも言える『The Empyrean』から約3年半、ジョン・フルシアンテがついにリリースしたニュー・アルバム『PBX Funicular Intaglio Zone』は、作風の大胆な変化からして聴く者すべてに大きな驚きを与えるのは間違いない。しかし、どこまで行ってもジョンはジョン。その驚きとは裏腹に、実のところ何も変わっていないのかも……と思う部分もある。

いや、わかったふりをしているつもりも、わかったような気になっているつもりもない。第一、まるで何かに取り憑かれたように精力的な創作活動を続けてきた、天才肌のミュージシャンである彼のことを、そう簡単に理解することなどできるわけがない。つまり〈何も変わっていない〉というのは、縦横無尽に飛び交うシンセ音と大音量で打ち鳴らされるビートに戸惑いながら新作を何度も聴き、そして抱いた筆者のごくごく素朴な感想なのだ。

本作はジョンにとって、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ再脱退後初めてのアルバムだ。7月に5曲入りの先行EP『Letur-Lefr』を発表しているが、RZAらがゲスト参加したその作品は本人いわく〈コンピレーション〉だそうで、アルバムの構想を練っている最中に作った楽曲よりセレクトしたものだというから、『PBX Funicular Intaglio Zone』はそのEPをさらに発展させた一枚ということになる。

曲作りはもちろん、プロデュースから演奏、さらにはエンジニアリングまでを彼がほぼ一人で担当。〈プログレッシヴ・シンセ・ポップ〉とみずから語っているように、2007年頃から習得しはじめたプログラミング技術を思う存分に使い、ドラムンベースなど多彩なリズムにアプローチして新境地を拓いている。もちろんギターも弾いているが、本作におけるジョンはギタリストというよりもトラックメイカーという肩書きがピッタリ。そこが過去の作品との大きな違いだろう。

たぶん、それをどう受け止めるかによってアルバムの評価も変わると思う。だが、レッチリ時代からエフェクトを駆使し、ジョシュ・クリングホッファーとのコラボ盤『A Sphere In The Heart Of Silence』(2004年)では80sニューウェイヴの独自解釈に取り組んでいたことを思い返せば、今回の〈プログレッシヴ・シンセ・ポップ〉も実はそれほど唐突なものではないはずだ。

また、混沌としたフリーキーなオケから、ソウル・ミュージックの影響も窺える美しいメロディーが浮かび上がるところもジョンならでは。その歌心はレッチリ時代から何ら変わらない。ファルセットからワイルドなシャウトまで、さまざまな声色を使い分けた歌唱からも並々ならぬ意欲が感じられ、歌モノとして聴いても満足できる作品になっている。

ジョン・メイヤー、デレク・トラックスと共に並び称される〈現代の3大ギタリスト〉というポジションには、もはや興味がないらしい。それでも随所で閃かせる、歪んだギターの音色がすこぶる美しいところも、何ともジョンらしいではないか。



▼『PBX Funicular Intaglio Zone』の先行EP『Letur-Lefr』(Record Collection)

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