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Keith Jarrett『Sleeper : Tokyo, April 16, 1979』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/10/03   18:42
ソース
text : 多田雅範(Niseko-Rossy Pi-Pikoe)

1979年中野サンプラザ、ヨーロピアン・カルテットのもうひとつのライヴ盤

70年代キースが蘇る。マイルスの許からECMレーベルにスカウトされ、ローザンヌ、ブレーメン、ケルンと前人未踏のピアノ・ソロでジャズ界を席巻した70年代のジャレットは、通称アメリカン・カルテットとヨーロピアン・カルテットという二つのグループを率いた。ガルバレク、ダニエルソン、クリステンセンという北欧の新進と組んだ後者は、「ジャレットの映し鏡のような美しさ」(小野好恵・ユリイカ編集長/当時)と評され、百年の名作『マイ・ソング』を生んでいる。79年5月ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴが『Nude Ants』として80年に登場。直後カルテットは創造の頂点で解散したが、89年になってECM創立20周年の企画として79年4月中野サンプラザでの来日公演が『Personal Mountains』としてリリースされる。公演した都市のオーラを美しい旋律やエモーションに結実させていた憑依のピアニストが70年代キースの真相であったとおりの完成度がそこに示されていた。04年にはアメリカ最大のジャズサイトのエイプリルフール記事がヨーロピアン・カルテットの再結成を記し、現在のジャレットたち4人の到達からの途方も無さを夢見たりもしていた。そしてここに30年以上の時を経て、79年4月中野サンプラザでの来日公演(4日間)のもうひとつのライヴ音源が登場してきたのだ。2枚組、タイトルの『Sleeper』にもエッジを感じる。ジャレット自身が「ダイナマイト」と称し、リリース自体ECMとしても珍しい事態だ。公演後異例のスピードでリリースされたソロ『リオ』が、70年代キースのダウントゥアースな演奏(トラック5)から異様な興奮に包まれた体験によるものだったことを思えば、望郷と郷愁のレーベルらしい理に叶ったものにも思える。それにしても、現在の耳で聴いて何と瑞々しいサウンドであろうか。失われた過去が、未来のように輝いて鳴り響いている。

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