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Dudley Benson 『The Awakening』『Forest : Songs by Hirini Melbourne』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/10/04   16:20
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
text:畠中実

ポップに出会う、ポリネシアの響き

あらゆる音楽には起源がある。それぞれの音楽様式は、その発祥地にちなむ地理的、文化的、社会的な諸背景において形成される。しかし、アジアに起源を持つ楽器は、西洋に伝搬し、計量化、規格化をへて、様式としての音楽的記憶を剥奪されて近代化したとも言える。むしろ近代以降、西洋音楽による西洋以外の音楽様式の発見、もしくは再発見にともなう様式の混交と多様性の認識は、とりわけポピュラー音楽の中で展開されたように思える。黒人音楽を起源にもつ、ロックは複製技術を背景にして、非常に広範囲に伝播した様式でもある。それゆえ、さまざまな国々で演奏され、そこには当地の伝統/民族音楽との混交としての様式が生み出された。

本邦初紹介となる2枚のCDが同時発売となった、ニュージーランドのシンガー・ソングライター、ダドリー・ベンソンも、そうした伝統との関係を意識した活動を展開しているひとりだろう。今回、2008年に発表された1枚目と2010年に発表された、それぞれやや趣を異にする2枚目のアルバムがリリースされた。1枚目の『The Awakening』は、ピアノやハープシコードやストリングスをバックに歌われる、そのままでもとても良質な歌曲集である。しかし、ニュージーランドの先住民族であるマオリ族の伝統に根ざした歴史や文化を継承しつつ、それを時代とともに変化、更新させることを自身の音楽的アイデンティティとしているというように、マオリ族の伝統楽器なども含めたアンサンブルは、歌詞をはじめ、独自の音楽世界を作り上げている。その2年後にリリースされた2枚目の『Forest : Songs by Hirini Melbourne』は、前作からのアプローチをさらに深化させ、もはやポピュラー音楽の範疇を超えている。歌詞はほとんどがマオリ語で歌われ、そのヴォーカルも1枚目から進化していることが明白である。そして、さらに2年を経た現在がとても気になる存在でもある。