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ヤン・シュヴァンクマイエル『サヴァイヴィングライフ -夢は第二の人生-』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/10/05   13:26
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
text:村尾泰郎

シュヴァンクマイエルがコラージュする夢の世界

ヤン・シュヴァンクマイエルはアニメ作家というより、シュルレアリストと紹介したほうがしっくりくる。アニメや映画、オブジェに絵画、様々な手段を通じて、人間の無意識の中にあるものをズルズルと引き出してきた鬼才の最新作『サヴァイヴィングライフ –夢は第二の人生–』は、いかにもシュルレアリストらしく夢がテーマ。これまで悪夢のようなイメージを紡ぎ出してきたシュヴァンクマイエルだが、真っ正面から夢と向き合った映像作品は意外と初めてかもしれない。

毎日、淡々と仕事をこなし、生活に疲れ果てたような妻と二人暮らしのエフジェンは、最近、不思議な夢を見るようになる。夢には決まって真っ赤な服を着た美人が現れて、エフジェンを誘うのだが、エフジェンと彼女に手首には同じ傷がある。次第に彼女のことが気になったエフジェンは精神分析の診断を受け、夢が自分の子供の頃に体験した出来事に深く関わっていることを知るが、エフジェンには肝心の幼少期の記憶がまったくなかった。その謎を突き止めるべく、エフジェンは夢の世界に入る儀式を習得して、自分の無意識の奥深くへと潜り込んでいく……。

これまで映画ではいろんなアプローチで夢を描いてきたが、今回シュヴァンクマイエルが選んだのは〈カットアウト・アニメーション〉。モノや動物と人間の身体が結合するコラージュ感はマックス・エルンストを思わせるが、それが動き始めるとモンティ・パイソン時代のテリー・ギリアムのアニメみたい。ぬるぬるした身体感覚や卵や果物が潰れるイメージなど、シュヴァンクマイエルらしいモチーフを随所に散りばめながら夢と現実の境界を撹乱していく。シュヴァンクマイエルは本作を最後の作品だと思って製作したらしいが、ここでは夢を通じてシュルレアリズムの根本=無意識の力を見つめていて、ルイス・ブニュエルからデヴィッド・リンチに通じる無意識過剰な映像世界が広がっている。それにしても、自分の無意識の世界をさまようなんて想像しただけでも不気味だが、映画の結末も実に恐ろしい。夢にはシュールな地雷が潜んでいるのだ。

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