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Jan Bang, Erik Honore & David Sylvian『アンコモン・ディアティーズ』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/10/18   16:40
ソース
intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)
テキスト
text:畠中実

聴覚のリアリティ

画家、福井篤は、デイヴィッド・シルヴィアンの作品『ブレミッシュ』のジャケットや『マナフォン』のアートワークを制作していることでも知られる。その静謐さを湛えた絵画作品には、どこか孤独なふうの人物、光り輝く植物や動物などが淡色の風景の中に描かれていたり、描かれた日常的な光景が異星の風景のように見えたり、現実と非現実のあわいとでもいうような独自のヴィジョンが描かれている。『ブレミッシュ』をはじめて聴いたとき、ジャケットに描かれた絵が、そのまま音楽の情景となってオーヴァーラップした。そこはかとない詩情と、絵画の中にとじ込められた静寂、そしてそこから喚起される物語が、押し殺した感情を表出した『ブレミッシュ』と淡く冷たく美しいコントラストを描き出していた。それは、ジャパン時代からどこか隠遁生活を夢見ていたかのようなシルヴィアンのヴィジョンとも重なり合うようでもある。

本作『アンコモン・ディアティーズ』は、2011年9月にノルウェーで開催された音楽イヴェント「Punkt Festival 2011」において、福井とシルヴィアンが共同制作し発表したサウンド・インスタレーションのCDヴァージョンである。福井による絵画とシルヴィアンによる朗読、そして、ヤン・バングとエリック・オノレによるサウンドが、そのタイトルのとおり「非凡なる神々」を描き出している。そこには、ノルウェーの詩人、ポール・ヘルゲ・ハウゲンとニルス・キリスティアン・モー・レプスタッドによって書かれた詩にもとづき、「単細胞の神」「不眠の神」「静寂の神」「ブラックホールの神」などの、さまざまな非凡なる神々が登場する。これは本来、近年のシルヴィアンの指向するスポンティニアスな音楽要素と言語、および視覚的要素によって構成された複合的なインスタレーション作品であるが、ここでは音響のみによる喚起力がより際立ってくるようだ。

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