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CALVIN HARRIS 『18 Months』

連載
NEW OPUSコラム
公開
2012/10/31   18:00
更新
2012/10/31   18:00
ソース
bounce 349号(2012年10月25日発行)
テキスト
文/出嶌孝次


完全無欠のポップ・モンスターがダンス・グルーヴをまたしても頂上まで押し上げる。世界的なスケールでヒットの山脈を築いてきた男のピークタイムはまだまだこれから訪れるのだ!!!!!!!!!!



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正直なところ、昇り調子のまま2009年に放ったセカンド・アルバム『Ready For The Weekend』によって、彼はもう頂点に到達したものだと思っていた。実際に同作はUKチャートを制したし、アルバムの前フリとなるディジー・ラスカルのシングル“Dance Wiv Me”もNo.1を獲得していたから、その意味で頂点に立ったのは間違いないが、それよりもまたひとつ高い峰が彼の足場には用意されていたのだ。



世界とシンクロしたサウンド

そんな彼——スコットランド出身のクリエイター、カルヴィン・ハリスも28歳になった。MySpace世代の申し子なんて言われたデビュー当時の状況もすでに懐かしすぎるが……まったくの無名時代に自身のページにアップした音源がオンラインで話題となり、カイリー・ミノーグからプロデュースのオファーを受けたことでも評判は一気に加速した。

DJ出身者の多かったダンス・クリエイターとは異なり、みずからヴォーカルも取るディスコ・サウンドはダイナミックながらもどこかインドアな雰囲気を纏っていて、当初はペット・ショップ・ボーイズやニュー・オーダーに通じるニュアンスを指摘されることも多かったように思う。いきなりのインスタント・ヒットとなった“Acceptable In The 80s”“The Girls”を含むファースト・アルバム『I Created Disco』(2007年)は本国でゴールド・ディスクに輝いた。

しかしながら、現在の彼はフライアイで表情を隠したかつてのキッチュな姿とは違う。件の『Ready For The Weekend』から2曲目の全英No.1に輝いた本人歌唱の“I'm Not Alone”は、翌年に登場したクリス・ブラウン“Yeah 3x”の激似騒ぎでも再脚光を浴びることになる(後にクリス側はクレジットにカルヴィンの名を追加した)。このことは、世界標準のポップ・サウンドの流れとカルヴィンのスタイルが完全にシンクロしはじめたことを意味していたのかもしれない。EDMとアーバンがこれ以上なく接近して大衆音楽におけるメインストリームとなった2011年、カルヴィンが用意した最初のボムは、前年にリミキサーとして接点の生まれていたケリスをフィーチャーした“Bounce”。それに続いたのはみずから味のある歌声を披露した“Feel So Close”。ヨーロッパを席巻したその2曲に続いたのが、リアーナと共演した“We Found Love”だった。



さらなる頂点へ

同曲のワールドワイド・ヒットは、これまで以上のスケール感と旬の勢いを伴って、カルヴィン・ハリスの名をより広いフィールドに知らしめた。絶好調のまま突入した今年最初のシングル“Let's Go”にはニーヨの滑らかな歌声をフィーチャー。その次の“We'll Be Coming Back”にはUKラッパーのイグザンプルを迎え、これらのシングルは前年の“Bounce”から4曲連続で全英2位を獲得している。こうした成果を贅沢に網羅したのが、今回登場するニュー・アルバム『18 Months』だ。

USアーバンの大物を軸に据えた大型ダンス・アルバムは、デヴィッド・ゲッタのサクセス以降、大物クリエイターの常套手段となっている。が、アルバムの中身を眺めてみると、『18 Months』は少し様子が違うこともわかる。フローレンス・ウェルチのアンロックな歌声が優雅に翔る最新シングル“Sweet Nothing”をはじめ、タイニー・テンパーのユニークなラップを配したトランシーな“Drinking From The Bottle”、エリー・ゴールディングのウィッチ・ヴォイスが快い“I Need Your Love”、盟友のディジー・ラスカルがダンスホール調のビートに鋭く斬り込むヒプノティック・ホップの“Here 2 China”(ディプロ周辺で知られるディロン・フランシスとの共同制作)、そして無名時代の“Let Me Know”(2004年)から組んでいるアヤーの歌った“Thinking About You”など、昨今のブリティッシュ・インヴェイジョンを象徴するような自国アーティスト中心の内容で、その意味ではむしろゲッタより、ディジーやアヤーも参加したDJフレッシュの『Nextlevelism』に意識が近いのではないだろうか。

8月の〈サマソニ〉に出演するなど日本でもすでに人気のカルヴィンだが、いずれにせよ、今回の『18 Months』を以て彼が世界規模でさらなるピークを踏みしめることは必至だろう。



▼『18 Months』に参加したアーティストの関連作を紹介。

左から、ケリスの2010年作『Flesh Tone』(Will.I.Am/Interscope)、フローレンス・アンド・ザ・マシーンの2011年作『Ceremonials』(Island)、アヤーが参加しているDJフレッシュのニュー・アルバム『Nextlevelism』(Ministry Of Sound)

 

▼カルヴィン・ハリスのアルバム。

左から、2007年作『I Created Disco』、2009年作『Ready For The Weekend』(共にFly Eye/Columbia)

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