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Nicomedes Santa Cruz『クマナナ・アフロ・ペルーの詩と歌』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/11/01   12:59
ソース
intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)
テキスト
text:佐藤由美

アフロ・ペルー音楽復興の立役者によるすばらしき遺産

2011年、国連の定めた「国際アフリカ年(アフリカ系の人々のための国際年)」を機に、半世紀近い時を経て完全復刻かなった、この歴史的アルバム。ペルー海岸地域の貴重な黒人文化の復興に貢献したとして、つとに名高い。詳細かつ膨大な資料、詩の朗読を軸とする前半部(ディスク1)の特性もあり、研究者ならいざ知らず、音楽ファンにはいささか敷居の高い作品だった。64年発売当時、輸入盤が多く出回ったという話も聞かない。だが、リマ都市音楽への注目度のお蔭で、日本語解説付き発売が実現するとは……感謝感激!

ニコメデス・サンタ・クルース(1925―1992)は、詩人、研究家、随筆家、ジャーナリストでもあった。58年、失われつつあるアフロ系音楽をとり戻すべく、クマナナ集団を結成。「クマナナ」とは、ギター伴奏で詩作を歌い交わす伝統を指すそうだ。氏は、「クマナナの音声には、明らかなキンブンド語の響きが」と記す。キンブンドは、リオのサンバと同じくアフリカ南部バントゥー系諸語のひとつで、アンゴラがルーツ。

ディスク1には、スペイン伝来の詩形「デシマ(十行詩)」と「ポエマ」(叙事詩や自由形式の詩?)の朗読がたっぷり。ときにギターやカホン、手拍子に歌も加わる。艶のある低音は温もりに満ち、喜びと深い哀しみを湛えて素晴らしい。特に1曲目、ボラ・デ・ニエベに捧げた詩作の響きたるや……朗読そのものが独特のリズム感を帯び、実に音楽的だ。13曲目のギターと詩の交錯に、ユパンキを思い出すファンがいるかも。

ディスク2では、クマナナ集団の素朴で美しいパフォーマンスが堪能できる。ポピュラーな《サンバ・マラトー》はじめ、ランドー、マリネーラ、フェステーホ、パナリビオ、サーニャ、物売り歌プレゴーン等々。

ルーツ探究と伝承使命に根ざす優れた歴史的考察であり、同時に社会問題意識を喚起する「声明」の意味合いもあったはず。ラテンアメリカの連帯という時代の潮流が、きっとニコメデスに力を与えたのだろう。