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カルロス・サウラ『フラメンコ・フラメンコ』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/11/05   14:49
ソース
intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)
テキスト
text:佐藤由美

穏やかな熟成期? 名匠が捉えた21世紀のフラメンコたち

ご多分に漏れずフラメンコ界も、20世紀のあまた国宝級アーティストを失った。15年ぶりにカルロス・サウラが対峙する顔ぶれ、芸風に変化をきたしているのは当然だろう。サウラは「新しいフラメンコ」と語るが、現役最高峰ここに集結!と、声を大にして言いたい。なんてったって名プロデューサー(この映画の音楽監督)、イシドロ・ムニョスの人選。本流を外すわけがない。やはり、策士監督とストラーロ・カメラの魔力は健在だった。 特筆すべきは美術効果。むき出しの鉄骨が優美な曲線を描く波天井のハコ。磨かれた木の床にすっくと並ぶ古風な絵画の衝立群に鏡。光と色の交錯……いずれのシーンも絵画の情景に演者がとけ込み、もしくは絵画の中からぬけ出してきたかのよう。そんな舞台装置を幾重にも張り巡らせ、主役の個性と特色を巧みに配し、歌詞の連携で魅せる。スター・オンパレードの派手さはなく、各々役割を担っている、との感あり。

舞踊界の両女王、サラ・バラスとエバ・ジェルバブエナ。振付師ハビエル・ラトーレ手がける洗練された群舞。一瞬一瞬の決めポーズに命を賭けるイスラエル・ガルバン。一族の誇りを、歌うがごとき自然体バイレに託すプリンス、ファルキート。ギター界の重鎮、パコとサンルーカルも登場するので、ご安心を。

お薦めは、ディエゴ・アマドールのピアノ&カンテ弾き語りの妙! 自身「真珠の耳飾りの熟女」と化すマリア・バラ、いぶし銀のサエタ。歌謡コプラ復興の原動力、ミゲル・ポベダの、銀幕を彩ったスター3人とパケーラへの称賛。同じくポベダのナナ(子守唄)は、彼が足繁く訪れたベネズエラの英雄、シモン・ディアスの《満月のトナーダ》旋律を借用。シーンに衝撃を与えた天才カマロンの《時の伝説》を、かつての伴奏者トマティートが、優しげな追憶のブレリアに塗り替える。そして終幕は、これぞヘレスの宴! 全体のトーンはいたって穏やか。挑発と激情の時代が過ぎ去り、フラメンコは熟成期に入ったのかも知れない。

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