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和ジャズの、あらたな領域──KING VINTAGE JAZZ COLLECTOR'S EDITION

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公開
2012/12/17   12:40
ソース
ソース: intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:原雅明

DJ、クラブ・ミュージックの側からの日本のジャズ音源のまとまった発掘は、1995年にUKのノーザン・ソウル系のDJであるジェフ・ヤングがコンパイルした『Classic Jazz-Funk Mastercuts Volume 6』が有名で、川崎燎、渡辺貞夫、日野皓正、八木のぶおらが70年代後半から80年代に残した音源(その多くはフュージョンと呼ばれる範疇にある)が広く 世界的に再評価されるきっかけともなった。〈JapーJazzの決定版〉と銘打たれたこのコンピレーション・アルバムに代表されるように、当時DJが熱心に紹介したレア・グルーヴとしてのメロウ・フュージョンの再評価の延長で、逆輸入文化として日本のジャズへの関心もまずは高まった。そして、DJの貪欲なディグは、すぐさま、70年代、60年代の音源へと遡り、スピリチュアルやモーダルという言葉をまとって、日本のジャズの新たな紹介は進んでいくことになる。やがて、〈JapーJazz〉はいつしか〈和ジャズ〉という言葉に翻訳され、逆輸入文化からドメスティックなジャンルの事象に変化していくことにもなった。

こうした発掘は、まさにキングレコードがジャズを積極的にリリースした50年代後半から80年代前半の歴史を溯行する動きだと言える。 90年代にはまだ比較的に安価で取引されていたそれらの中古レコードも、〈和ジャズ〉として値が上がり、特に近年ではDJのターンテーブルには乗せづらいフリー・ジャズ系のレコードの高騰が目に付くようになってもいる。ここに至って、DJ目線による発掘もひとつの役割を終えた感がある。だから、〈キング・ヴィンテージ・ジャズ・コレクターズ・エディション〉と銘打って、1500円の低価格で2期に分けて計60タイトルがCDでリイシューされたことは、とても象徴的な出来事だと言えるだろう。そして、この新たなカタログ化によって可視化された日本のジャズから、何がさらに聞こえてくるのか、僕はそこに興味がある。

第1期の30タイトルの中では、白木秀雄がわりと重点的に紹介されていたが、その音源も、池田芳夫や石川晶とカウント・バッファローズの音源も、あるいは山下洋輔や安田南の音源も、フラットに並んでいることが印象的だった。今回の第2期の30タイトルでも、猪俣猛とサウンドリミテッドやリチャード・パイン&カンパニー(松本易夫)や村岡実などのDJに好まれた70年代のジャズ・ロック~ジャズ・ファンク系の音源と、渡辺貞夫や宮沢昭らの50年代の初期セッション音源と、富樫雅彦がドン・チェリーやスティーヴ・レイシーと対峙した音源が、これもフラットに並ぶ。

ミュージシャンたちがそれぞれに一歩一歩進み、積み重ねてきた日本のジャズの流れと、そこを時に自由に、そして無謀に溯行して再発見していったDJ以降の流れの両方が、この計60タイトルのCDの並列を可能にしたのだ。それは、日本のジャズ史に囚われる必要もなく、これらの音と接することができるということでもあるし、DJカルチャーが発見した評価軸にも囚われる必要はないということでもある。自由な聴かれ方を準備しているとも言えるが、すべてが相対化されていく、ある意味恐ろしくもあるフラットな地平を、図らずもこの60タイトルの並列は示してもいる。

音楽メディアとしてのCDは、少なくとも日本ではまだ辛うじてその魅力を保っている。こういったカタログの並列を容易く可能にし、伝達するのに適したメディアであることを日本では上手く利用できているからかもしれない。そして、この並列の中から聴こえてくる日本のジャズは、まったく同じデザインのジャケットをまとっていて、同じ音源の複製物ではあっても、ジャズ喫茶でかかるレコードとも、DJのターンテーブルに乗るレコードとも違ったものに響くだろう。それは、これからこの音源に触れる若い世代のリスナーの聴き方と発見にかかっているとも言える。そこに希望と期待を寄せつつ、たくさんの情報を抱え込んでしまった僕は、ゆっくりとこれらの音源を聴き直していくことで何かヒントを得たいと思っている。

キング・ヴィンテージ・ジャズ・コレクターズ・エディション第2期全30タイトル 12/5発売