こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

金沢21世紀美術館 「ソンエリュミエール、そして叡智」

金沢21世紀美術館 「ソンエリュミエール、そして叡智」(2)

公開
2012/12/26   12:57
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
文/星憲一朗(涼音堂茶舗)

ゴヤの作品に色濃く現れている社会への批評精神や、「音と光」から想起される題材をモチーフにした作品を通し震災と原発事故、そこから見える監視管理体制下の社会や権力構造、そしてこれからの人間生活のあり方を展覧会と作品を通して考えるきっかけとなればという狙いがあったとキュレーションをつとめる北出さんは語る。

音を軸に空間全体を実験する梅田哲也のパフォーマンスなど「音」を題材としたアーティストの作品も展示されている。

光を題材にした作品ではラファエル・ロサノ=ヘメルの《パルス・ルーム》は心拍センサーがついていて、体験者の心拍数が電球の明滅に反映していくという作品。すべてが点くとおびただしい数の心拍がそれぞれのリズムで壮観に明滅する。

16,000Wという超大出力の光を投光する村上隆『シーブリーズ アナザーディメンション 2012版』は作品の前に立つと直視出来ないくらいの強烈な光で、鑑賞者はほぼその残像しか見る事が出来ない。この作品の重要なモチーフである原爆をタイムボカン風のキノコ雲の壁画と配した作品。

『サンセット〜サンライズ・アーク』は、植物学者でもあるパトリック・ブランが、自身の研究対象の植物・朝顔を、ガラス張りの中庭空間の壁と通路にレイアウト、計16種類の朝顔の1種として日比野克彦氏の《「明後日朝顔プロジェクト21」の種》が組み合わされたプロジェクト。色とりどりの朝顔がガラスのトンネルを通してグラデーションを描いている作品。プロジェクトの中で朝顔は世代を超えて何度も種となって他の箱船のように漂っていく。

一巡して、この展覧会のテーマはこの美術館が金沢という土地に建てられた事と通じるところがあるような気がしてきた。

金沢21世紀美術館のすぐ隣には兼六園のある台地があって、中世この台地からは砂金が採れたらしい。周囲には川の物流を頼りに酒・味噌等の醸造業者や、鍛冶・金属を扱う職人たちが行き交う交易の場が広がっていた。山の富を取り出す金属の技術者たちや、海の向こうへ富を運ぶ海の交易に携わる商人たち。この美術館はまさにそうした山と海の交錯点に建てられている。近代都市は人間の理性やロジックの部分を司るように街を碁盤の目のように設定し、生活をグリッドに整列させていこうとするのだが、金沢はそうではなく、川の流れにそってうねうねと曲がりくねったままの街が残っている。理性や論理を超えた、形をもたずにダイレクトに沸き上がってくるようなもの。藝術作品が作られるような力はここからやってくる。こうした自然の力や「モノが生み出される力」の場に立ち会う人々が一向一揆の基盤となり、金沢の原型がつくられていった。そしてこの街の性質をさらに複雑にしているのは一向一揆を武家の文化が殲滅し制圧して来たという歴史だ。彼らは百万石の生産力と絢爛な文化の力を誇示しながら、数量化された生産力と、中央や上方からのきらびやかな文化こそがこの街を物語るという目くらましを機能させている。その実、地下でこの街の美意識はせめぎ合いを続けている。秀吉と利休の美意識をめぐる対立にどこか似たもの。彼らはほんとうは制圧されてなどいないのだ。金沢という街では今もその抜き差しならない緊張が続いているんじゃないんだろうか。と、この展覧会の美術館のオープニングに、本展に出品中のゴヤの作品2点の所蔵者である大湊神社の松村忠祀宮司がいらしていて、バイパスを建設するために原生林を伐採する風潮にえらく憤慨なさっていた。今から思うと彼の憤慨はそのままこの展覧会とつながっているように思うのだ。

「このままでは日本はまっすぐな道ばかりになってしまう。道というのは本来曲がりくねっているものなんだ。そこから生きる知恵が生まれるんじゃないか」

図版:フランシスコ・デ・ゴヤ《 「ロス・カプリチョス」62番 いったい、誰が信じるだろうか!》1797-98 大湊神社蔵
撮影:渡邉修

INFORMATION
「ソンエリュミエール、そして叡智」  
Son et Lumière, et sagesse profonde

9/15(土)~2013年3/17(日)
10:00〜18:00 (金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館
出品作家
パトリック・ブラン、ジェイク& ディノス・チャップマン、Chim↑Pom、ぺーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス、フランシスコ・デ・ゴヤ、日比野克彦、木村太陽、草間彌生、ラファエル・ロサノ=へメル、村上隆、奈良美智、ピピロッティ・リスト、鈴木ヒラク、梅田哲也
http://www.kanazawa21.jp/

特別上映会
ピピロッティ・リスト監督 映画《ペパーミンタ》
日時:2013年3月16日(土)16:00〜17:30
17日(日)14:00〜15:30
会場:金沢21世紀美術館 シアター21
料金:入場無料(ただし、当日の本展観覧券が必要)

記事ナビ