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CARPE DIEM

カテゴリ
EXTRA-PICK UP
公開
2013/01/08   12:13
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:ホッピー神山

古楽という伝統的ジャンルに囚われない新しいアプローチや音の響き

「Carpe Diem」、今まで聞いた事がなかったレーベルの名前だ。レーベル立ち上げ当時は室内楽を録音するレーベルだったようだが、2008年にオーナーが変わると、「古楽」というレーベルコンセプトに変貌した。このCarpe Diemというレーベル、NAXOSがディストリビューションをおこなっている傘下のレーベルなのだ。NAXOSと言えば、有名作曲家や演奏家ばかりリリースする大手レーベルに対抗して、あまり知られていない各国の作曲家や演奏家にも白羽の矢を立て、 しかも安い価格で販売するという、今までになかった画期的なレーベルとして名高いことはご存知だろう。ロック・フィールドのものでは、ジェネシスのキーボード・プレイヤー、トニー・バンクスのシンフォニー作品をもリリースするといったマニアックぶりをも発揮。NAXOSのオーナー夫人が日本人であることもあり、日本の作曲家の作品も多くリリースしている。

さて、Carpe Diemは、そんなユニークなNAXOSが認めたレーベルだから、注目されるのも当然のことかも知れない。ナクソス・ジャパンより送っていただいたCarpe Diemのいくつかのアルバムを聴いてまず感じた事は、ヨーロッパの古楽でありながら、どれにも同じような質感や音触りを感じたことだ。これ、どこかで聴いたことあるぞ、っていう感触である。そう、ヨーロッパの各地に演奏旅行に行った時、その会場で響く、あの音響である。基本的に西洋の家屋の作りや教会のような集会場は、石や煉瓦で出来ているので、よく響くのだ。しかも、とてもリリースの長いナチュラル・リヴァーブである。それは、楽器の鳴り (響き)のいち部分となって、聴く人の耳に返ってくる訳だ。西洋楽器って、近くで響く音だけではなく、その場所に響く音すべてなんだな、とあらためて実感。 残響のリリースが長ければ、おのずと音符やフレーズがゆったりと間のあるものになってくる。残響のリリースによって、音楽が大きく変わるのだ。このレーベル、 Carpe Diemのレコーディングの仕方等の解説をあとで読んでみると、そのはず、 このレーベルのレコーディングの多くは、中世に建造されたヨーロッパ各地の教会や修道院で行なわれているようである。この自然残響音は、スタジオにおいて擬似的に作るエフェクターによるものと違い、聴いていて気持ちよく、そして飽きもなく、長時間環境音楽として聴く事も可能だ。

そして、このレーベルの特徴だが、よくある古楽器による古楽という伝統的ジャンルに囚われない新しいアプローチや音の響きがある。それは、古楽器をただの古いものとして聴かせないところ。特筆すべきは、セルパンやベース奏者である ミシェル・ゴダールの作品『芳香のコンサート(Le Concert des Parfums)』、そのミシェル・ゴダールを含むアンサンブル、トレ・バッシによる『深き淵から(De Profundis)』、その他作品としては、初期バロックの即興演奏をおこなっているモレ・イスパノの『16-17世紀の声楽作品集(Glosas: Embellished Renaissance Music)』、ピッチニーニ親子作曲のアルキリュート(とてつもなく沢山の弦が張られたリュートである)で奏でるイタリア音楽、ロザリオ・コンテの『アレッサンドロ・ピッチニーニ:リュートとキタローネのためのタブラチュラ集(抜粋)』。 歌、フルート、リュートによるパンタグリュエルの『Nymphidia』が、まずは入門編としてお薦めしたいアルバムである。これからリリース予定と思われるクァリア『世界と音楽 15世紀のスペインとフランドルの器楽曲』とクリスマス・アルバム『Quadrga Consort-On A Cold Winter's Day』も、レーベルのカラーを掴みやすいアルバムとして是非聴いていただきたいところ。

このレーベルの作品群で聴ける、古い教会等に響く古楽器のその音は、まさに時代を越えたヨーロッパそのものである。そして、現代の新しい演奏家の解釈は、古楽もニューミュージックになってしまう。古楽って、もともと即興演奏から始まってるし、古楽器による古楽の即興演奏なんていうのも、なんだか面白い。

CARPE DIEM(カルペ・ディエム)
ドイツのレコーディング・エンジニア、トーマス・ゲルネが創設した室内楽専門レーベル。特に古楽、現代音楽、演奏される機会の少ないクラシック作品に力を入れ、気鋭の演奏家を起用して完成度の高い音楽を提供している。2008年からはトーマス・ゲルネからドイツのリュート奏者ヨナス・ニーダーシュタットに譲渡され、古楽を中心としたレーベルとして再スタートしている。