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映画『東京家族』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/01/11   13:35
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:吉川明利

「東京家族」は、まぎれもなく山田洋次監督作品!

先日、撮り溜めておいた、かつてBSで放送された特集番組『黒澤明とその時代-全30作の軌跡』をようやく見た。その番組に登場した山田洋次監督は「憧れた監督は黒澤明だったのに、入った松竹では小津安二郎が健在で、『彼岸花』や『お早う』を作っていた。当時の若い自分たちにとって小津さんの映画は古臭い映画、とるに足らない映画だと思っていた」と語っているのに驚かされた。また、同様なことを、この映画の完成披露試写会に急遽駆けつけた舞台挨拶でも語っていた。しかし、それは血気盛んな映画青年には、小津安二郎の独特の世界を理解出来なかったからだとも、素直に告白しているのである。その山田監督が作った新作こそが、監督生活50周年記念作と称し、小津安二郎に捧げた『東京家族』である。

2012年8月に発表された〈世界の映画監督が投票する最も優れた映画〉の第一位となった小津安二郎の代表作『東京物語』をモチーフとして、現代の家族を見つめた作品となっている。しかし、田舎に住む両親が東京にいる子供たちに逢いに来るというプロットと、役名を似せてはいるが、これはまぎれもなく山田洋次の『東京家族』という映画。『東京物語』に色濃く反映されていた〈戦後〉は当然ながらなく、そこにあるのは震災後の日本なのだ。そして次の世代を生きようとする若者の姿だ。そう、原節子が演じた戦争未亡人の紀子役は、ここでは蒼井優で、平山家の次男・昌次(妻夫木聡)の恋人という巧みな設定! 映画の後半は昌次と紀子(二人は震災後のボランティア活動を通じて知り合う)の青春映画としても見応え充分。クライマックスは、その紀子と出会った昌次の母(吉行和子)が、紀子を気に入り安堵し笑顔になる場面だ。この満面の笑顔は『東京物語』の紀子が告白する「私、ずるいんです」の複雑な笑顔に対抗出来る素晴らしさ! このあと母は倒れ還らぬ人となるが、山田監督は倒れて以降の吉行和子のアップは挿入せず、最後まで〈母の笑顔〉の印象を強く残すというさすがの演出を見せてくれる。父である平山周吉(橋爪功)が旧友と酒を呑む場面は、小津映画に対するオマージュと共に、周吉の台詞「どっかで間違うてしもうたんじゃ、この国は」に監督のメッセージが込められている重要なもの。その店の女将に扮する風吹ジュン、そして妻を亡くし故郷に帰った周吉の身の回りの面倒を見てくれる、隣の家のユキちゃん役の荒川ちかといった平山家以外の脇役も含め、本当に魅力あるキャスト陣だ。

映画ファンのみならず、山田洋次映画を1本も見たことのない若者に言いたい! 面白く感じようが、つまらなく感じようが、この映画は、今見なけれなならない映画なのだ!

©2013「東京家族」製作委員会

映画『東京家族』
監督:山田洋次
脚本:山田洋次/平松恵美子
音楽:久石譲
出演:橋爪功/吉行和子/西村雅彦/夏川結衣/中嶋朋子/林家正蔵/妻夫木聡/蒼井優
配給:松竹株式会社
◎1/19(土)全国ロードショー
http://www.tokyo-kazoku.jp

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