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フランチェスコ・トリスターノ『ロング・ウォーク』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/01/16   13:55
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

長い道のり。なんと重層的なアルバムタイトル!

『ロング・ウォーク』。長い道のり。なんと重層的なアルバムタイトルだろうか。1705年、若きバッハが老ブクステフーデを訪ねるために歩いた片道400kmの「長い道のり」。デビュー当初から、バッハ《ゴルトベルク変奏曲》を重要なレパートリーとして弾いてきたピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ(FT)の「長い道のり」。クラシックの演奏活動のかたわら、デトロイトテクノのDJと交流を深め、リミクサーとしての腕を磨いてきたFTの「長い道のり」。世界各地で数多くのグランドピアノを弾いた末、FTが「スーパーマシン」と呼ぶところのピアノ、ヤマハCFXと運命的な出会いを果たすまでの「長い道のり」。それらがすべて重なり合った結果、FTは《ゴルトベルク変奏曲》を座標軸にして時間と空間が螺旋状に渦を巻きながら伸びていく「長い道のり」、すなわちアルバム『ロング・ウォーク』を歩み始めた。

《ゴルトベルク変奏曲》の第30変奏の中には、ブクステフーデ《アリア「ラ・カプリッチョーザ」による32の変奏曲》の主題が引用されているが、バッハがブクステフーデにインスパイアされて《ゴルトベルク変奏曲》を作曲したのは一目瞭然。しかも《ゴルトベルク変奏曲》完成後、バッハが自筆譜の余白に書き残した14のカノンBWV1087(冒頭のアリアの低音旋律の最初の8音に基づく)は、《ゴルトベルク変奏曲》が「終着点にたどり着いた」作品として完結していないことを示唆している。

そこでFTは、ブクステフーデの変奏曲をヤマハCFXで演奏するという冒険に出た上、BWV1087の14のカノンをヤマハCFXで「リミックス」し、新作《ロング・ウォーク》として甦らせたのだ。これほど知的に、かつ刺激的に《ゴルトベルク変奏曲》を戯れるFTというピアニストと出会うまで、我々はグレン・グールドの衝撃的なデビュー以来、どれほど「長い道のり」を歩かされ続けたことか!

LIVE  INFORMATION
『ドイツ・グラモフォンCD第2弾「ロング・ウォーク」発売記念リサイタル』

2/20(水)王子ホール(東京)
2/21(木)京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
2/22(金)電気文化会館 ザ・コンサートホール(名古屋)

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