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『メランコリックな宇宙 ドン・ハーツフェルト作品集』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/01/18   20:46
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:町田良夫(音楽家・美術家)

技術革新からだけではなく、新しい視点、価値観の転換からも新しい作品は生まれるのだ!

アニメーションは、物語を言葉と音楽と共に映像化した〈演劇〉の延長線上に位置する作品か、音楽をイメージとシンクロさせた〈絵画〉の延長線上に位置する作品が多い。しかし、ドン・ハーツフェルトの作品は前者の形式をとりながらも別次元の作品に思える。

1976年カリフォルニア生まれのハーツフェルドは、大学時代の卒業制作作品『ビリーの風船』がカンヌ国際映画祭コンペティションに選出されて以来、これまで100以上の賞を受賞している。このDVDは、彼が制作してきた作品から選ばれた代表的な8つ(計107分)を収めた作品集だ。

初期作品から一貫して紙に鉛筆で描かれたシンプルな線画と実写との組み合わせを特徴とし、作画と撮影を一人でこなしているという。コンピュータを介在せず撮影された動きはアナログならではの有機的なものだが、編集のテンポは小気味良く現代的で、この組み合わせがとても新鮮だ。

ビルという主人公を中心として描かれている三部作『きっとすべて大丈夫』『あなたは私の誇り』『なんて素敵な日』では、ハーツフェルト自身がナレーションも担当している。インタヴューで自分は決して良いナレーターではないと謙遜しているが、その哲学的なテキストと声の質感、読み上げのタイミングのコンビネーションが見事に成功している。紙に空けられた穴の形の中に投射されたイメージを1つの画面に多重的に出没させるなど、1つ1つのテクニックは目新しくないものの、その手法の組み合わせ方、積み重ねがハーツフェルト作品を新鮮に感じさせるのだろう。音楽の選択や彼自身が付け加えている効果音、特にノイズのセンスがとても音楽的で素晴らしい。

デジタルの潮流は確かに現代性を感じさせる。しかし必ずしも技術革新が新しい作品を生むとも限らない。ハーツフェルトの作品は、作家の新しい視点、価値観の転換が新しい作品を生み出している好例と言えよう。