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トーキョードリフター

連載
NEW OPUSコラム
公開
2013/03/25   00:30
更新
2013/03/25   00:30
ソース
bounce 352号(2013年2月25日発行)
テキスト
文/岡村詩野


ネオンが消えた震災直後の東京の街を彷徨い歌う、前野健太のドキュメント



「ライブテープ」(2009年)に続く、松江哲明監督による前野健太主演のドキュメンタリー映画がDVD化(メイキング映像やインタヴューなどを含むボーナス・ディスクと合わせた2枚組)。東日本大震災直後、夜の東京を舞台に、アコースティック・ギターを弾きながら新宿の路地裏や下北沢界隈の住宅街などを彷徨うように歌い歩く前野を、カメラが寡黙に追いかける。暗すぎて彼の表情さえ見えないシーンも多いし、マイクを通していないため、歌も決してクリアには聴こえてこない。すべての曲がフル・コーラスで歌われているわけでもない。なのに、ステージ上でのパフォーマンスよりも歌の世界は生々しく、賑やかさや華やかさを汚れや孤独といっしょに呑み込んでしまう東京という街に馴染んでいる。この男が東京で歌いはじめた必然が感じられるのだ。とりわけ、バイクで走り去っていく朝のラスト・シーンが印象的。震災後の節電で街から灯りは消えていたが、ギターを背負って朝日を浴びながら前へ前へと向かっていく。それはかすかな希望を抱えて立ち上がろうとする、われわれ日本人の姿そのものだ。



▼前野健太の2011年のミニ・アルバム『トーキョードリフター』(felicity)