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長谷正人『敗者たちの想像力 脚本家 山田太一』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/02/03   17:54
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:吉川明利

「敗者」のままで誇りをもって生きるとは?

映画だったら監督論、音楽だったらアーティスト論など様々あるが、その本の読み手の立場になったときの〈これは良い本だ!〉と感じる基準は、まずはその文章で語られている作品が見たくなる、もしくは聴きたくなるかどうかだと思っている。その一点がキチンと確立されていなければ、書き手と読み手の接点は見いだせないだろう。本書は多くの作品を取り上げながら、脚本家山田太一を論じ、見事なほどに読後すぐに代表作である『ふぞろいな林檎たち』や『男たちの旅路』が見たくなったという点では、大変ユニークで面白い作家評伝と断言できる。5部構成の形をとり、山田太一という脚本家が生み出したテレビドラマから、四流大学生の3人の若者、すでに崩壊し人生の底に降り立つ家族、太平洋戦争の特攻隊の生き残り、高卒のOLなどの主人公たちを「敗者」と定義し、「勝者」に成り上がろうとせず「敗者」であるがままで自らに誇りをもって生きるとはどんな事なのかを論じている。確かに70年代から80年代に渡って、山田太一脚本で生み出された連続テレビドラマは、一般視聴者にとって最も身近な存在の、いわゆる等身大の人間たちが主人公だった。しかし、その登場人物たちが「敗者」であるか、「勝者」であるかを、この本に沿って読み取る以前に、最も重要なことは、そう難しく考えることなく、まずは山田太一脚本作品に触れることだろう。正に一部のファンには奇跡のDVD化と言われている『岸辺のアルバム』が11月30日に発売となったばかりだ。本書では36ページで「なぜかDVD化されていないこのテレビドラマ史上の最高傑作の1本の発売を(中略)要求しなければならないのだと思う」と書き記されているが、無事発売となったことをここに追記しておきたい。さらに本書が発売された後に、松竹からは山田太一が映画からTVの世界へ転身し、活躍をはじめた〈木下恵介劇場 木下恵介アワー〉の『二人の世界』『おやじ太鼓』『記念樹』、そして本書でも取り上げられている『3人家族』『それぞれの秋』のDVDが発売と、書籍の出版とDVD発売がリンク出来ていないのが何とも残念ではないか。著者の長谷正人氏には、このTV脚本家出発点の作品群にも、もっと触れて欲しかったのである。