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KAAT 神奈川芸術劇場 「隅田川二題」~能から生まれたふたつの『隅田川』

KAAT 神奈川芸術劇場 「隅田川二題」~能から生まれたふたつの『隅田川』(2)

公開
2013/02/20   17:29
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
文/小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

能に刺激を受けたとはいっても、表現においては、能とオペラではやはり大きく違っているところがある。能にある抑制ではなく、ある力強ささえオペラにはあるのだと、と。

鈴木准:僕が演じる「マッドウーマン/Mad woman(狂女)」というキャラクターに関してですが、マッド、って言っても彼女は狂っているわけではない。わが子を失った悲しみにとりつかれ、そのことしか考えられなくなっている。その意味では「隅田川」の狂女とおなじです。ただ、その表現、嘆きの表現が違っている。たとえば、顔に手をかざして泣く、嘆くという表現が能にはある。対して、ブリテン作品では、一種、叫ぶわけです。フォルテでね。ほんとうに哀しみが、嘆きがひどすぎて、「祈ることなどわたしにはできない!」って叫ぶシーンがある。こうしたところは、日本の音楽スタッフと話していて、やっぱり欧米の感覚でしょう、と。イタリア・オペラでの薄倖のうちに嘆きを歌いあげ、亡くなってゆくヒロインみたいに、そんな元気だったら大丈夫だよ、って思ってしまう(笑)。やはりフォルテって書かれていますから、その表現として感情を爆発させるというところがオペラたるゆえんか、と。

マッドウーマンと渡し守、修道院長と旅人、あと8人の巡礼者がいる。ステージにいるこの歌手は全員が男声。巡礼者=合唱は、古代のギリシャ悲劇におけるコロスや、能の地謡ともつながる役割をはたす。

鈴木准:マッドウーマンがひとりで取り乱しているさまを、引いたところから接している周りの人たちがいる。だけど、その感情の爆発に接し、感情に支配されて取りこまれていき、最後は祈りを共にするわけです。そうですね……共感……その共感の表現っていうのは、「わたしもそう思うよ」っていうと、周りもやはりそのように歌うし、ことばに出す。そこがオペラですね。ギリシャ悲劇におけるコロスにあたる合唱が、ときにはそこの登場人物であり、ときにはお客さんの立場で「ああ、この人はいま狂っているけれど、何なのだろう」と解説的に歌うところもある。

能の音楽的な側面はどうなのだろう。

角田鋼亮:本当に音の素材は切り詰められていて、メロディというよりかは、音の音程関係だけで音楽が作られているし、アンサンブルの編成をみても、数ある音のパレットのなかから厳選して七つの楽器が選ばれている。その凝縮された作曲法は、能のそういう、感情を抑え込んだ表現や身振り手振りの小さいものと近しい部分があるでしょう。表現が外側に向かっていく部分ではたしかにオペラの雰囲気があります。ただ、その西洋の伝統的なオペラ表現と日本的な内面的な表現が両方あるのが、この作品の魅力でしょう。

最後に、お二人にメッセージをお願いしよう。

角田鋼亮:いままさにつくりあげているところで、どういう風になっていくのか、まだ見えてこないのですが、作品自体が素晴らしい。ずっと西洋の音楽を勉強していた自分にとって、雅楽の要素などがとても新しく、先鋭的に響くのです。ブリテンが能を見たとき、雅楽を聴いたときに驚きと感動があったことが譜面から感じられます。そういったところをクローズ・アップして伝えていけたらな、と僕は思っていますね。

 鈴木准:ブリテンが、なぜ日本の音楽や舞台芸術に惹かれたかということが、その一部でもわかっていただけるようにと、今回は日本語でお届けすることになります。日本が世界に誇る「隅田川」という題材がどのように料理されるのか。『カーリュー・リヴァー』の方ではそこを観ていただければと思いますね。お能の舞台をこの前観たときに、本当に僕は日本のことを全然知らないなあ、という感覚に襲われたのです。そういう意味で、再発見ではないですけれど、新しい魅力、それから、自分たちのなかに眠っている美的感覚とか、そういうものを呼び覚ますきっかけになればなあ、と思います。

「隅田川二題」
演出・振付・出演 花柳壽輔

〈オペラ〉 『カーリュー・リヴァー』(日本語上演)
作曲:ベンジャミン・ブリテン、脚本:ウィリアム・プルーマー
訳詞:若杉弘、演出・振付:花柳壽輔、指揮:角田鋼亮
出演:鈴木准(T)大久保光哉(Br)井上雅人(Br)浅井隆仁(Br)篠井英介(舞踊)大沢健(舞踊)花柳登貫太朗(舞踊)坂東三信之輔(舞踊)二期会(合唱)東京少年少女合唱隊員(霊の声)
演奏:上野由恵(fl)氏家亮(hr)冨田大輔(va)栗田涼子(cb)
津野田圭(hp)牧野美沙(perc)鎌田涼子(org)

〈日本舞踊〉『清元 隅田川』
作詞:条野採菊 作曲:二世清元梅吉
出演:花柳壽輔、花柳基、清元志佐雄太夫。清元美治郎ほか

3/22(金)19:00開演
3/23(土)16:00開演

会場:KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

http://www.kaat.jp/

『隅田川二題』関連企画 連続講座~ふたつの隅田川~

「川と芸能~“隅田川もの”の系譜と「清元 隅田川」~」
2/24(日)14:00  〈中スタジオ〉
講師:鈴木英一(古典芸能研究家・演劇博物館招聘研究員)ほか

「花柳壽輔×宮本亜門 トークセッション」
3/2(土)11:00  〈中スタジオ〉
ゲスト:花柳壽輔(日本舞踊花柳流四世宗家家元・「カーリュー・リヴァー」演出・振付、「清元 隅田川」出演)
宮本亜門(演出家・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)
中井美穂(司会)

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