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サラ・ポーリー 『テイク・ディス・ワルツ』

公開
2013/03/01   13:04
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:高野直人(秋葉原店)

一瞬の輝きを見逃すな!

ミシェル・ウィリアムズ主演の映画を見る度に、「おー神よ! あのミシェル・ウィリアムズがあんなことをー!」と、心の中で叫んでしまうのは何故か? いやいや、ミシェル・ウィリアムズはいつだって実はあんなことしたりする映画に出てるでしょー、最近だと『ブルーバレンタイン』で、男女の恋愛の破滅をトラウマチックに描きながらもミシェルの熱演がこちらの予想以上で、そのことコミで凹まされた男性も多いと思いますが、本作も「ちょっとオシャレな恋愛映画」と思って見ると痛い目を見るトラウマ系力作なので、まずは注意が必要である。

ミシェル扮するマーゴは子供はいないが優しい夫と幸せに暮らしていた。仕事の取材で訪れた観光地でダニエルという男性と出会う。帰りの飛行機でまた出会う(偶然?)。自宅への帰り道が一緒(偶然?)。意気投合しながら着いてみたら、ダニエルは自宅の前に住んでる人でした(偶然?)。この幾度の(偶然?)というマーゴの心の声が、いつしか「運命」だとメラメラする心と、しかし私は人妻なのよ、夫はすごくいい人なのよ、でも何かが足りない気がするわ…あーどうしよう私? という心の葛藤から始まる物語である。

女性の心の揺れを描いた三角関係のドラマである。夫が料理レシピを仕事に、ダニエルが人力車夫(!)という設定も含めて、シンプルで類型的な設定といっていい。揺れるマーゴに感情移入する人も憤慨する人もいるだろう。ここまでは類型的である。この映画が類型的でないのは、感情移入してしまう人や憤慨する人をも同時に襲うどうしようもない人生への諦念である。その真理を、誰もが「わたしはこの人とは違う」と思っている人物に言わせる辺りの毒性を含めて、女優サラ・ポーリーの監督としての骨太な手腕が見事に発揮されている。特に、女性ならではのミシェル・ウィリアムズへの意地悪な視線! 安易に救いを用意しないからこその、ミシェル・ウィリアムズとバグルス『ラジオスターの悲劇』の音楽の一瞬の輝き(刹那)を見逃してはならないだろう。

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