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安田謙一『なんとかと なんとかがいた なんとかズ』

公開
2013/03/12   12:56
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:村尾泰郎

千鳥足にもグルーヴが! 向こう見ずなサービス精神が最高にロックンロール!

お待ちかね、世界で唯一のロック漫筆家、安田謙一の最新作品集。〈ファースト・アルバム〉の『ピントがボケる音』以降、フリーランスのライターになった2002年から2012年まで、10年分の原稿がたっぷり収録されている。分厚いけれど、ラーメン屋でも、トイレでも、カノジョの愚痴を聞きながらでも、ペラペラっと読める読みやすさと面白さは、さすが〈ロック漫筆〉。〈漫筆〉とは〈思いつくままに、とりとめもなく書き記すこと〉(デジタル大辞典より)だが、〈ロック〉と銘打っているだけあって千鳥足にもグルーヴがある。舌先滑らか、思いつくままに語っているようにみえて、実は緻密に構成されているようでもあり、とはいえ最終的にノリと直感で突っ走る原稿は、〈読む〉というより、その独特の文体に〈ノセられる〉快感が魅力だったりするのだ。

ポール・マッカートニー、クレイジーケンバンド、岡村靖幸、いしいひさいち、ウォーレン・オーツ、殿様キングス、梅図かずおetc..。原稿というマナ板に乗るネタはバラエティに富んでいるが、「キングクリムゾン21世紀のスキゾイド映画祭」「スーダラなるもの」「酒で死ねたら本望ロック」なんてタイトルを眺めるだけでも、著者が足しげく通う神戸三宮の高架下に軒を連ねる〈怪しい店〉のワゴンを物色するようなワクワク感でゴハン三杯イケるってもの。まず、イントロでグイッと読者を掴んで、あとは〈お題〉から自由自在にアドリブを展開。次から次へと引き出しを開けてアクロバティックに展開するテキストは、定食を頼んだはずが、いつの間にかおまかせコースになっているような読書体験が味わえる。「もじり」や「こじつけ」の数々で翻弄しながら、痒いところにスバッと斬り込む批評性(&目のつけどころ)のシャープさに曇りはなく、ふざけながら急所を突く、まさに酔拳のごとき至芸に何度も膝を打ったりもして。その向こう見ずなサービス精神が最高にロックンロール! ちなみに装丁のデザインは坂本慎太郎。ほら、なんとか帝国にいた人です。

LIVE  INFORMATION
『なんとかズ・オン・ツアー 安田謙一がやって来る 2013 名古屋偏「なんとかと なんとかがいた なんとかズ」 発売記念! 』

3/19(火)開場 18:00/開演 19:00
会場:オーガニックカフェ・ギャラリー 空色曲玉