映画『ペンギン夫婦の作りかた』より(小池栄子、ワン・チュアンイー)
「辺銀食堂の石垣島ラー油」の生みの親、辺銀愛里さん&辺銀暁峰さんインタヴュー
数年前に日本中を駆け巡った“食べるラー油”ブーム。餃子向けの調味料と思われていたラー油は、ご飯はもちろん様々な料理に使う万能調味料へと進化した。お土産物から大手食品メーカーが手がけたものまで様々だが、その共通点は油だけでなく「具」が多いこと。その「具」もすくってかけるのが“食べるラー油”の特徴だ。
そんなラー油のきっかけとなったのが、沖縄・石垣島で作られている「辺銀食堂の石垣島ラー油」。島の香辛料などを使った手作りのこのラー油は、沖縄食品店や物産展に入荷するとあっという間に完売し、通販で注文してもなかなか届かないという貴重な逸品として話題になっていたが、それを作っているのが、石垣島で食堂を経営する辺銀(ぺんぎん)さんご夫妻。最初にこの名前を見たときには、あまりの珍名さんぶりにビックリしたものだが、聞けば中国出身のご主人が日本に帰化する際、自由に名字をつけていいことから、ペンギン好きの奥さんがつけたのだという。つまり日本で唯一の名字というわけだ。
そんな辺銀愛理さんが書いた書籍「ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし」(マガジンハウス刊)を原案に映画化したのが「ペンギン夫婦の作りかた」。各映画賞を受賞するなど実力派の女優小池栄子と台湾の人気俳優ワン・チュアンイーが辺銀夫妻を演じているのだが、ご夫妻はどんな気持ちでスクリーンを眺めたのか「未だに冷静に見られません(笑)。なにか申し訳ない気持ちです」とのこと。映画ではご主人の帰化を審査する面接を一つの軸に、二人の出会から移住、嬉しい出会いとラー油づくりを始めたきっかけを順序立てて綴っていく。そしてそれぞれのエピソードは映画化にあたって少しずつ変えてはいるが、ノンフィクションにほど近い内容だという。それならば本人を起用したドキュメンタリーでもいいような気がするが、敢えて役者が演技をした理由を監督の平林克理氏は「本人達がひょうひょうと話すのをそのまま映画にしても伝わらないんです。二人の人間っぽさをだすには、役者さんの力を借りて、さらに別のシチュエーションに換える必要があるんです」と語ってくれた。
面白いのは夫妻を知る周囲の人々が、そのフィクションを実話だと信じたこと。「みんなが同情して(帰化申請の面接官が厳しく描かれていることに対して)大変だったねー。面接官の名前は誰ね?などとずいぶんいわれました(笑)」他人のことでもすぐに親身になる石垣の人々らしいエピソードだろう。
ストーリーの最後には、ご夫妻が新しい名字に「辺銀」とつけた理由も明かされるが、そのあたりで美味しいものを食べた時みたいに、気持ちがふわっと暖まる……そんな作品に仕上がっている。見終わった頃には、石垣島・辺銀食堂に出かけたく……なるはずだ。
写真=辺銀暁峰さんと辺銀愛里さん