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新国立劇場バレエ団 ペンギン・カフェ2013

カテゴリ
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公開
2013/03/21   13:36
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
文/山野雄大

photo:鹿摩隆司

愉楽と豪奢と疾走と─《ペンギン・カフェ》ほか、バレエ表現の秀逸を観る/聴く

バレエダンサーの洗練と演技力を存分に楽しませてくれる、洒落てユニークな舞台──しかしほろ苦い味わいを残しながら、噛むほどに大人の味ふかいエンタテインメント。バレエ《ペンギン・カフェ》再演は個人的にも楽しみにしているところ。なにしろ同じ新国立劇場バレエ団による前回・2010年秋の上演もたいへん高水準の愉しい舞台だった!しかもここ数年で俊敏なカンパニーはたゆまぬ挑戦の成果あって上昇気流に乗っている。今回も意欲的なトリプル・ビル公演(3作上演)なので、バレエ愛好家以外のかたにも楽しんでいただきたいものだ。

新国立劇場バレエ団の躍進は、英国の振付家デヴィッド・ビントレーが(長らく芸術監督を務めている英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団との兼任で)新国立劇場舞踊芸術監督に就任してから著しい。ビントレーの振付はクラシック・バレエの技法に巧みなひねりを加えて雄弁を増し、リズム感も冴えて豊か。奇を衒わず、しかしダンサーには常に高いテクニックと挑戦心を求め、それが快い高揚感を生む。──新国立劇場バレエ団に振り付けた《アラジン》《パゴダの王子》のように豪奢をファンタジックに広げた作品から、ジャズを踊る《テイク・ファイヴ》、オルフの劇的大作をバレエ化した《カルミナ・ブラーナ》など多彩な音楽を見事に呼吸する。

今回、再演される《ペンギン・カフェ》(正式タイトルは《〈スティル・ライフ〉アット・ザ・ペンギン・カフェ》)は英国で1988年に初演されたビントレーの代表作。故サイモン・ジェフスが率いた〈ペンギン・カフェ・オーケストラ(以下PCO)〉の音楽によるユニークなバレエだ。

PCOはアンビエント/環境音楽とされるが、クラシックからミニマル・ミュージック、民族音楽まで多彩に取り込んで人気を博した。不思議なジャケットも印象的だが、新しくもどこか懐かしい心地よさに惹き込まれるこの音楽に刺激されたビントレーは、その音楽を幾つか選んでバレエに振り付けた。

お盆を持ってくるくる踊る〈ペンギンウェイター〉から愉しく饗宴に導かれると…出てくるのはいずれもダンサーがかぶりもので踊る動物たち。〈ユタのオオツノヒツジ〉〈テキサスのカンガルーネズミ〉〈豚鼻スカンクにつくノミ〉(ダンサーにとっては凄い役名だ!)〈ケープヤマシマウマ〉〈ブラジルのウーリーモンキー〉…さらに人間の〈熱帯雨林の家族〉も登場して情愛をしっとりと描くのも素晴らしい見どころ。

そして陽気な音楽に冴えわたるダンス──しかし出てくるのはすべて「絶滅の危機」に直面した面々だ。実はここに隠れたテーマがあって、最後には…実際ご覧いただいて余韻を噛みしめていただきたいが、静かに強い印象を残して終わるこのバレエ、さりげなく文明と環境の問題に斬り込んでみせているのだ。それをエンタテインメントの中へ無理なく響かせるあたりが凄い。

PCOのオリジナル編成はバレエ上演には適さないので、オーケストラ編曲版で上演される(以前にCD化された折《帰ってきたペンギン・カフェ》という不思議な邦題で発売されたものだが)。サイモン・ジェフスが97年に亡くなり活動を停めたPCOも、サイモンの息子アーサーを中心に再始動、昨年は来日公演もおこなわれたばかり。合わせたようにバレエ版も再演される機会、ぜひお楽しみを。

同時上演されるバランシン《シンフォニー・イン・C》は、ビゼーの〈交響曲ハ長調〉に振り付けた抽象バレエの傑作。舞台いっぱいに広がるクラシカルな白いチュチュのダンサーたちが音楽性も見事に踊るさまは正に白い交響曲。群舞の高水準を誇る新国立劇場バレエ団の十八番だ。そしてもうひとつ──ビントレーの近作《E=mc2》(2009年)の日本初演も期待大。エネルギー(E)、質量(M)、光速度(C)の3部に〈マンハッタン計画〉というセクションが挿入され…と記せば、アインシュタインの方程式に原爆を重ねた意図は見えてこよう。ハインドソンによるオリジナル音楽と共に、カンパニーの面々が疾走する。この秀逸なプログラミングもビントレーの強み。音楽と舞踊の可能性を観客のなかに深く拡げてくれる機会となるだろう。

LIVE INFORMATION
ペンギン・カフェ2013
新国立劇場バレエ団
芸術監督:デヴィッド・ビントレー

4/28(日)、29(月・祝)14:00開演
5/2(木)19:00開演  
5/3(金・祝)、4(土・祝)14:00開演
「シンフォニー・イン・C」音楽:ジョルジュ・ビゼー、振付:ジョージ・バランシン
「E=mc2」音楽:マシュー・ハインドソン、 振付:デヴィッド・ビントレー  
「ペンギン・カフェ」音楽:サイモン・ジェフス(ペンギン・カフェ・オーケストラ)、 振付:デヴィッド・ビントレー
ポール・マーフィー(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団
会場:新国立劇場オペラパレス
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/

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