70代を迎えたダスティン・ホフマン初監督作品!
美しい田園風景に建つ、これ以上に望みようもないほど恵まれた、理想のホーム。おお羨ましい、これぞ名声を手にした老音楽家のみに与えられる特権……と思いきや、〈ビーチャム・ハウス〉は目下、存続の危機に直面している。1ヵ月後に控えた恒例ガラ公演、ヴェルディ生誕200周年を祝う興行の成功で得られる収益が、頼みの綱……どうなる!?
頑固な紳士レジー、キュートなシシー、女に目のないウィルフは、その昔『リゴレット』の《美しい恋の乙女よ》四重唱で栄光を分かち合った仲。公演準備の焦りの内にも、そこはかとなく可笑しく、ゆったりと流れる日常。だが新入りスターの到着に、嵐の予感。誇り高きジーンがもたらす剣呑な空気は、カルテット再結成案の急浮上で頂点に。レジーとジーン、実は苦い決別を経験した元夫婦だった……もつれた二人の関係は、どうなる!?
70代を迎えたダスティン・ホフマンを、初の映画監督業へと突き動かしたのが、この1999年に舞台化された、ロナルド・ハーウッドの手による脚本だったという。贅沢な音楽に満ちあふれ、過去と現在の肖像画を交互に見較べているような、愛おしい悲喜劇。ホフマン監督は、英国らしい秋色の中に、老いゆく者たちそれぞれの個性と記憶をそっと配置し、現実味を帯びたユーモアでもって寓話全体をすっぽり包み込む。いやはや、お見事!
レジー役のトム・コートネイ、ジーン役のマギー・スミスなど、英国至宝級の名優が居並ぶほか、音楽界からスター・ソプラノ歌手ギネス・ジョーンズ、ジャズ・ピアニストのジャック・ハニーボーン、トランペット奏者ロニー・ヒューズ等々がずらり参加。脇を固め、リハや舞台本番シーンのみならず暮らしの場面で、心にくい演技を披露してくれる。
もちろん『椿姫』の《乾杯の歌》、プッチーニ作『トスカ』のアリア《歌に生き、恋に生き》はじめ、オペラやクラシック名曲が満載。皮肉まじりの歌手批評じみた台詞さえ、ファンには一興。さらにミュージカル・ナンバーの陽気なデュエットあり、幼い姉妹が奏でる民謡あり。レジーの講義にやって来た青年ラッパーの即興もあれば、ジーンを怖気づかせた、医療スタッフ主宰のダンス教室に流れる中南米産クンビアまで……。この音楽の多様性が、一見閉ざされているようでいて決して外界から隔絶されているわけではない、〈ビーチャム・ハウス〉の豊かさの象徴だろう。さすがの仕掛け!観る?どうする!?
映画『カルテット 人生のオペラハウス』
監督:ダスティン・ホフマン
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:マギー・スミス/トム・コートネイ/ビリー・コノリー/ポーリーン・コリンズ/マイケル・ガンボン/ギネス・ジョーンズ/シェリダン・スミス/アンドリュー・サックス
配給:ギャガGAGA★(2012年 イギリス 99分)
4/19(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraルシネマ他全国順次ロードショー
http://quartet.gaga.ne.jp
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