こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

David Bowie『The Next Day』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/04/26   15:47
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:久保正樹

ボウイ、突然の帰還

2013年1月8日、デヴィッド・ボウイ66歳の誕生日に突如公式サイトにて公開された10年ぶりの新曲《Where Are You Now?》。ゆったりとたゆたう淡いメランコリーを背景に、黄昏前の静けさのような優しい歌声、そしてかつて彼が過ごしたベルリンの風景が流れゆく映像に、ボウイファンは胸がすくわれるとともに巨大な追憶の情に打たれて頬を濡らした。本当に帰ってきたのだ。

そしていよいよ発表されたアルバム。アートワークは名作『Heroes』(1977)のジャケットをリサイクルし、中央を白い四角で隠したもの。さらにそこに書きこまれた「The Next Day」(次の日)の文字。これまでにも「The Sound + Vision Tour」(1990)を最後に「過去の封印」を宣言しながら、直後のツアーでさらりと過去の名曲を織り交ぜるなど、その迷言に踊らされてきた僕たちだが、どうも今回は違うようだ……否、そんなことはどうでもいい。1曲目から『Scary Monsters』(1980)を彷彿とさせる巧妙なギターが鳴り、鮮やかなロックが飛び出し転がる。「私はここにいる 死んでいない」とボウイ。すでに先の追憶の情は何処へやら。あとは僕たちがよく知るボウイと、知らないボウイが至るところに神出しては巧みに鬼没する。ジギーの官能、シン・ホワイトデュークのシリアスさ、ベルリン時代と今を繋ぐ音響処理、80年代の香り華やぐメロディなど、往年のファンはそこここに過去を見つけて心躍される。そしてスノビズムに陥らないタイトな演奏、盟友トニー・ヴィスコンティのプロデュースによるリヴァーブの少ない質感も心地よく、全ての楽曲において不意に絶妙な仕草を目にした時のような、心浮かれる魔法が散りばめられていて、新しいリスナーが40年以上にも及ぶ彼の変容を逆に辿り、無限の宇宙を追体験する姿も想像できて楽しい。

かつてボウイは言った「私たちは英雄になれる たった1日だけ」(Just for One Day)と。そして今、ボウイはそこから僕たちを未来(The Next Days)へと連れ出してくれた。