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『ECM - A Cultural Archaeology』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/05/14   12:39
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:高見一樹

ECM -Contemporary Art of Music

2012年の11月23日から2013年の2月10日まで、ドイツのミュンヘンのハウス・デア・クンスト(美術館)で、ECM(レコードレーベル)の展覧会『ECM-A Cultural Archeology』が開かれた。 美術館がインディペンデント・レーベルの展覧会を? いったいどういうことなのだという気持ちでいっぱいだが、レコード会社だから本質的には工業デザインを見せる展覧会の類いの展示なのだろう、なるほどレコードやCDは製品であるが、しかし、たった一つのレーベルだけで開催できるのだから凄い。創立から30年以上を経て、創業から現在までのグラフィックや、タイポグラフィーの変遷が楽しめるだけでも、ECMのファンは納得だろう。

ECMは、1969年、ドイツ、ミュンヘン市にマンフレート・アイヒャーが始めたレコード会社である。60年代のジャズの影響下で欧州の音楽が、世界中の音楽家を巻き込みながら変化していく様をドイツと北欧をまたにかけ記録したレーベルである。ヤン・ガルバレク、キース・ジャレットやチック・コリア、さらにパット・メセニーが自分の音を創り出し、アルヴォ・ペルトの音楽を世界に届けた。またLPしかなかった頃、ジャケットの装丁の美しさに一目惚れ、収録された音楽が何事か確認せず購入、後で音を聴いて惚れ直し、すっかりファンになったという妙な音楽人種を生み出したレーベルの一つである。ブルーノートがアフロアメリカンなグラフィックでアピールしたのに対して、ECMはコンテンポラリーなヨーロピアンテイストで誘った。

さて、具体的な展示のことは、近々開催が噂されている韓国でのECM展までお預けなので、入手が簡単な展覧会のカタログを見てみる。レコーディングセッション時のスチールや、この展覧会を企画したキュレーター/プロデューサーの文章やもさることながら、レーベル当事者の発言を記録した鼎談(ECMからアイヒャーと、スティーヴ・レイクが参加)がとても面白い。アイヒャーがどういう問題意識でレーベルの音楽性を導いていったか、彼らが60年代の音楽(フリージャズの10月革命や、オーネット・コールマンなど)やアート(ヨーゼフ・ボイスやフルクサス)をどう楽しんだのかなど、出発点の彼らの美意識が言葉になっている。ちなみに社史に相当する年譜をECMのもう一人のプロデューサー、スティーヴ・レイクが書いていてこれも面白い。禁句かもしれないが、こういうECM本が読みたかった。