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Simone Dinnerstein & Tift Merritt『Night』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/05/15   12:38
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:五十嵐正

アメリカーナ・シンガーと新進ピアニスト──ジャンルをまたぐ友情

ティフト・メリットはアメリカーナの分野で15年ほどのキャリアを持つ女性シンガー・ソングライター。2002年にアルバム・デビューした頃はオルタナ・カントリー世代のリンダ・ロンシュタットという感じの元気娘だったが、近年はノース・キャロライナ州からニューヨーク市に拠点を移し、その音楽も陰影を増したフォーク・ロックに変化してきた。だから、05年の『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』で一躍注目を集めたクラシック界の人気ピアニスト、シモーヌ・ディナースタインとのコラボ作『Night』の登場は確かに驚きではあるが、この数年の彼女のアーティストとしての成長を顧みれば、こういった音楽的冒険も決して不思議ではないだろう。

2人は08年にティフトがラジオ番組でシモーヌにインタヴューしたことで出会い、10年頃からコラボの可能性を探ってきたという。これは意気投合した同年代の女性2人の友情ありきから始まった企画で、クラシックとフォーク/カントリーの融合とかいった肩肘張ったものではない。ジャンルと関係なく「ミュージシャン」2人が一緒に何ができるかと模索して作り上げた作品である。もちろん楽譜無しでは演奏にとまどう奏者とずっと耳だけで音楽をやってきた歌手の組み合わせだけに、実際の作業では苦労もあったようだが、歌声とギターとピアノだけというシンプルな編成に徹し、シモーヌは意識的に音数を減らしたという伴奏で効果を上げている。

収録曲の半分はティフトの自作曲で、残りはクラシック、ジャズ、フォーク/カントリーの各ジャンルからの多彩な曲が並ぶ大胆な選曲ではあるが、シューベルトの歌曲でハーモニカの音が聞こえてくるように(これはシモーヌのアイデアらしい)、クラシックやジャズ風に歌おうとしているわけではなく、あくまでこの歌声とピアノでそれらの曲をどう表現できるかが主眼だ。歌とピアノが2つの歌声のデュエットのように寄り添うパティ・グリフィン作の表題曲が特に素晴らしい。

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