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ウィリー・ヲゥーパー『ボサノヴァの真実』

公開
2013/05/23   14:16
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:渡部晋也

さらに深くボサノヴァを知るための一冊

今やカフェのBGMとして不動の地位を獲得したボサノヴァ。それもスタンダードばかりでなく、結構凝った選曲が成されているから驚かされるが、そのくらい浸透してきたと言えるのだろう。そのボサノヴァについて詳しい文献と言えば、ジャーナリスト、ルイ・カストロによる『ボサノヴァの歴史』(國安真奈訳/音楽之友社刊)が定番だった。そもそもボサノヴァという音楽スタイルは、ある日誰かが声高に宣言して生まれたのではなく、1950年代後半に起きたムーヴメントだが、その前兆から終焉までを網羅した大著と言える。しかし全て物事は一面だけで語るのには無理がある。ボサノヴァにしても然りだ。もう少し違った視線からのボサノヴァ論が(しかも日本語で)待望されてきたわけだが、この『ボサノヴァの真実』はそういった欲求に応えるだけの内容がある新たな大著といえるだろう。著者はブラジルの文化をこよなく愛する日本人の一人で、その守備範囲はボサノヴァやサンバだけでなくブラジル風カントリーのセルタネージャや若者が熱狂するポップスまでと実に幅広い。そんな筆者がボサノヴァに焦点を絞り込んで書き下ろしたのだから、本書にも実に沢山の内容が詰め込まれ、よくもここまで調べ上げたものだと頭が下がる。そして筆者自身が前書きで書いている通り、本書はすでにある程度ボサノヴァについての知識がある人に向けられている。それはつまりこれまでのボサノヴァ本の多くに見られる偏った情報を修正する内容が収められているということだろう。ジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビン(そしてちょっぴりヴィニシウス・ヂ・モラエス)が圧倒的主役というイメージが強いボサノヴァの誕生について、もっと他にも沢山の才能達がこのスタイルを作り出したことがここでは紹介されている。さらに現在の状況まで紹介しているから2冊目のテキストとして新たな定番となることは間違いない。ボサノヴァを語る前に必読の一冊。