photo by 小林修士(kind inc)
6月7日に日本公開を迎える映画「フェニックス~約束の歌~」。FTISLANDのイ・ホンギのスクリーン・デビュー作となるこの作品は、彼が演じるワガママで奔放なスターが、奉仕活動先のホスピスの人たちとの出会いや交流を通じて、人生を見つめなおしていくという感動作です。今回は、主演を務めたイ・ホンギさんに、映画の話はもちろん、彼が手掛けた日本版エンディング曲“オレンジ色の空”やプライベートの話題まで、さまざまなトピックをお伺いしました。
■監督が求めていたのは、感じたことをありのままに表現すること
「この映画を観てから、後悔しない人生を生きようと思いました」――6月7日に日本で公開となる映画「フェニックス~約束の歌~」は、役者としてのイ・ホンギの映画初主演作というだけでなく、彼の〈これから〉にさまざまな影響を与えた作品と言えるだろう。しかし、内容の良さが際立った作品だけに、脚本を受け取った当初はとまどいもあったという。
「いろいろなオファーを頂くと、もちろん嬉しいなぁって思うんですけど、この〈フェニックス~約束の歌~〉の台本を最初に読んだとき、俺はホスピスの存在を知らなくて……。上手く演じることができるのか心配だったんです。だから、役を引き受けるのを一度は諦めようと思って、事務所に〈これは無理だと思います〉って伝えて。でも、何度も読み返しているうちに、内容がとても良いので、俺の人生にとって大切な作品になると思ったし、映画を観た人もいろんな感動があるんじゃないかなと思って、出演することを決めたんです」
ホンギが最初に抱いた不安は、いい意味でとても重要なポイント。彼が演じたチュンイは、カメラのないところではいつも不機嫌なトップ・アイドルであり、些細なことで口論となった通りすがりの男に手を出した罰として奉仕活動を命じられ、ホスピスにはじめて足を運ぶこととなるからだ。つまり、チュンイとホンギは、〈一度もホスピスに行ったことがない〉という共通点がある。
「俺はホスピスに行ったことがないし、一回も経験したことのないことだったから、不安だったんですけど、監督の狙いはそこで。監督が求めていたのは、演技っぽさではなくて、セリフの自然なやり取りや、そのなかで感じた気持ちをありのまま表現することだったんです」
命の期限を宣告された人々が、最後の時間を過ごすホスピスのなかで結成されたバンド=フェニックスを、ひょんなきっかけで指導することになったチュンイ。限られた時間を明るく生きる人々と交流をすることで、チュンイが変わっていく姿を描いたこの映画は、一方でチュンイが持つ母の死へのトラウマと、母の延命治療を拒否したことで疎遠となっていた父との関係もポイントとなっている。
「映画のなかで父親に電話をするシーンがあるんですけど、その部分の撮影の前には、集中する時間をたくさん貰いました。昔、俺もお母さんに会いたかったけど会えなかったときもあったので……。この撮影をする前にお母さんに電話をして、いろんな話をしたんですよ。〈いま何してるの? 体調はどう?〉って」
ホンギ自身の心の準備の時間をしっかり設けたことで、彼が演じるチュンイの変化は深みを増し、物語が進むにつれてその行動や表情のひとつひとつに心が動かされる。さらに、チュンイの成長とまわりの人たちとのやりとりをとらえた映像の美しさもまた、感動を呼ぶポイントだ。それだけに、印象に残る場面がとても多い。
「この映画の登場するシーン全部が印象的なんですけど……、あえて一つだけ挙げるとしたら、終盤のバンド演奏をする前に登場するホスピスにいる人たちの映像。俺も見ながら泣いてしまいました」
ところで、今回の映画「フェニックス~約束の歌~」の主人公のチュンイはスターであり、歌や楽器を披露するシーンが登場する。これまでに出演したドラマでも幾度かキャスティングされてきた〈スター〉という役どころを演じることとなったホンギだが、FTISLANDとヴォーカリストとして歌うことと、役を通じて歌うことの違い、そして歌手、役者としての違いとは。
「全然違うでしょー(笑)。FTISLANDのホンギは……、めちゃくちゃワガママ。とっても自由で、結構パワフルで、感情的なヴォーカルです。一方、これまで演じてきたキャラクターたちは、みんな、ちょっと天才。楽器も弾けるし。でも、みんな心に痛みがあるアーティストたちです。アーティストのホンギは、俺そのもの。でも、演技をするときのホンギは、その人にならなきゃいけないじゃないですか。役的に。だから、結構変身できるというのは、あります。役者として将来的には、カメレオンみたいな……。どんな色にも変われる俳優になりたいです。でも、本体はホンギで。ホンギがいろんな色に変われる、いろんな役に変われる。……難しいかなぁ?(笑)」
■アーティスト、イ・ホンギが影響を受けた人物、そして日本版エンディング曲“オレンジ色の空”で描いた空の色が〈オレンジ〉である理由
映画のなかでホンギが演じているチュンイは、ホスピスの人たちと出会って、成長を遂げていく。それでは、ホンギにとって自分を成長させてくれた〈特別な出会い〉は、あったのだろうか。
「……まだないなぁ。うーん、まだないです。でも、例えば1人だけ選ぶとすると、ONE OK ROCKのTakaかなぁ。すごく仲良しなんですけど、Takaと出会う前までは、韓国でも交流があるバンドっていなくて、いても大先輩で。俺がバンドのヴォーカルとして気になる人って、いなかったんですね。でも、Takaを知ったときから、〈この人……なんだよ?〉って思って。いまはめっちゃ仲良しなんだけど、やっぱり気になりますね」
FTISLANDが韓国でデビューした2007年に、ファースト・シングル“内秘心書”をリリースをしたONE OK ROCK。日本と韓国を行き来するFTISLANDだが、ONE OK ROCKもまた、〈JISAN VALLEY ROCK FESTIVAL〉に出演したり、AX-KOREAで単独公演を開催したりと、韓国でもライヴ活動を行っている。FTISLANDのヴォーカルとしてのホンギから見たTakaと、2人の関係とは。
「もちろん、俺とTakaの違いっていうのはあって、Takaを見て彼はこれが上手だなって感じたら、じゃあTakaが出来ないことで、俺がうまくできることもあるはずだから、じゃあそれを探してみようかなって思うんです。Takaもめっちゃロックな声なんですけど、俺の声がもっと太いっていうか。俺も男としては結構高いキーだけど、Takaよりは低いから。でもTakaに比べると、俺の声は太いというか、暗めというか。だから俺は感情的に表現することを頑張ろうと思いましたね。あと、ヴォーカリストとしてのスタイルのことだけじゃなくて、曲作りのことも話します。音楽の話をすると、これから何をやりたい?とか、どんな音楽やりたい?とか。今回、俺は誰と誰と一緒にやることになったよ、とか。今回、俺が作曲したけど聞いてみる?とか。でも、10時間一緒にいたとすると、音楽の話は……1時間ぐらい?(笑)」
他のミュージシャンとの交流を深めながらアーティストとしてさらなる進化を遂げているホンギは、最近曲作りのための機材を購入し、機材をいじっているのがすごく楽しいのだという。映画「フェニックス~約束の歌~」の日本版のエンディングでは、「もともとエンディング曲だったものがあまりしっくりこなかったので、自分で会社に提案した」という自作曲“オレンジ色の空”が流れている。映画のために歌詞を書き直したというこの曲は、〈天国からの手紙〉など、さまざまな思いをテーマに綴られた、感動的なバラードだ。ところで、なぜこの曲のタイトルに出てくる空は〈オレンジ〉なのだろうか。
「この曲のタイトルの空が〈オレンジ〉である理由は、青だったら……明るい気持ち、でも黄色だったら……普通にあたたかい気持ちのような感じがしていて。黄色だと楽しい感じがするじゃないですか。で、黒だったら悲しい感じというか。でもオレンジは、いろんな気持ちが入っている色だと思いました。夕暮れ時の切ない感じもあるし、明るいけど、気持ちいいんだけど、ちょっと暗くなるし、でも見ていると気持ちが楽になるし……。オレンジって、そういう意味があるような気がして」
“オレンジ色の空”は、6月12日にリリースとなるFTISLANDのニュー・アルバム『RATED-FT』でもラストを飾っている。「野外のライヴでオレンジ色の空をバックにこの曲を歌ったら、素敵ですよね」とこちらから話すと、「本当にやりたいですね!」と目を輝かせながら語っていた姿が印象的だった。空と同じようにさまざまな〈色〉を放つヴォーカリストとして、役者として、アーティストとして、成長を続けるホンギ。その銀幕デビュー作となる「フェニックス~約束の歌~」は、ファンならずとも見逃せない作品になるに違いない。
〈「フェニックス~約束の歌~」 公開情報〉
2013年/韓国/100分 原題:뜨거운 안녕
配給:東宝東和 配給協力:東宝映像事業部 提供:KJ-net 宣伝協力:ブレイントラスト
(C)KJ-net
監督:ナム・テクス 出演:イ・ホンギ(FTISLAND)、マ・ドンソク、イム・ウォニ、ペク・ジニ
公式HP:phoenix-band.jp
日本版エンディングソング:“オレンジ色の空”FTISLAND(アルバム『RATED-FT』収録 発売元:WARNER MUSIC JAPAN)
6月7日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
“オレンジ色の空”