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70s回帰の新作に見る、ダフト・パンクの音楽愛

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2013/06/10   19:30
更新
2013/06/10   19:30
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返るコラム。今回は、ダフト・パンクの8年ぶりとなるニュー・アルバム『Random Access Memories』について。70年代のディスコへ回帰した本作からは、2人の音楽への愛、リスペクトの深さが感じられて――。



90年代後半より一時代を築いたプロデュース・チーム、ネプチューンズのメンバーで、2000年代はN*E*R*Dとして活躍したファレル・ウィリアムス。そして、ディスコ~ファンク・バンド、シックのソングライター/ギタリストで、80年代はプロデューサーとしてデヴィッド・ボウイやマドンナなどを手掛けたナイル・ロジャースを起用したシングル“Get Lucky”が本人たちも〈売れすぎやろ〉と引くぐらい売れたダフト・パンクだが、それに続く彼らの8年ぶりとなる4作目『Random Access Memories』もバカ売れしている。

“Get Lucky”を初めて聴いた時、〈こんなのシックなサウンドにアース・ウィンド&ファイアのスウィートなファルセット・ヴォーカルを乗せただけじゃん〉と思っていたのだが、1曲目“Give Life Back To Music”は〈あれ? これ違うCD?〉と疑うくらいに70年代的で大袈裟なイントロで、目が点になった。そして、3曲目“Giorgio By Moroder”を聴いたら、もう涙が止まらなかった。これは反則やろと思った。

ジョルジオ・モロダーが自分の音楽人生を語り出すんですよ。〈ギターを弾きはじめた15~16歳の頃、僕は絶対ミュージシャンになりたいと思った。小さな町に住んでいたし、その夢は不可能なように思えた。でも学校を出てミュージシャンになることができて、少し希望が持てた。僕が音楽でやりたかったことは楽器を演奏するだけじゃなく、作曲することだった。69~70年のドイツにはもうディスコがあった。僕は車でディスコに行って、7曲くらい歌わせてもらっていた。家に帰る途中、車の中で寝た。そういう生活を2年くらい続けた……〉そう言葉を紡ぐジョルジオの声に合わせて、音楽が被さっていくんです。

それはジョルジオ・モロダーが新しい音楽を作ろうとシンセサイザーの同期を思い付くまで続けられる。まさにエレクトリック・ミュージックの誕生の瞬間を歌にしたような曲なのだ。これをやられたら泣くでしょう。これは完全にダフト・パンクの音楽への愛、リスペクトの深さですよ。

『Random Access Memories』という作品は、そういうアルバムなのです。これに気付いた時、このアルバムがどれだけ輝きだしたか。1曲目のタイトル“Give Life Back To Music”がすべてを物語っているんですけどね。そう、このアルバムはPC上で作られることが主流になった現代の音楽への反抗なのですよ。

ダフト・パンクのあのヘルメットって、エイリアンのマインド・コントロールから身を守っている設定だったそうで、それってまさに〈いまの音楽に影響されないぞ〉〈過去の音楽だけからインスパイアされるぞ〉というメッセージですよね。

カッコイイすね、ロボットちゃん。で、こういう彼らのメッセージもちゃんとわかっているお客さんも素晴らしい。ダフト・パンクのアルバムが売れているということはみんなPCにコントロールされた音に飽き飽きしているということでしょう。

さあ、ダフト・パンクのCDを携帯プレイヤーに入れて、町に出よう。きっと町はコンピューターにすべてを支配される前、グローバル化する世界の前に変わるはず。70年代の町を軽やかに歩けるはずです。