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サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2013

公開
2013/07/03   17:31
ソース
intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)
テキスト
text : 鈴木大介

「挑戦」と「越境」
池辺晋一郎がプロデュースする「現代の音楽」

「現代の音楽」というと、前衛アートのように観念的な世界を想像しがちだけれど、実際は今の世界を同時に生きる作曲家たちによる、私たちの感性に「最も身近な」音楽なのだと思う。それが日本人の監修によってプログラムされたコンサートであればなおさらと言えるだろう。サントリー芸術財団主催のサマーフェスティバルは、これまで四半世紀にわたって、世界中の最先端の音楽のなかから、時代の断面を切り取るような刺激的なプログラムを聴かせて来てくれた。昨年もクセナキスのオペラ『オレステイア』、ジョン・ケージのミュージサーカスなどを含む華やかなラインナップが話題となった。

今年から新たに、「ザ・プロデューサー・シリーズ」と銘打った新しい企画を展開。先頭を飾るプロデューサーは作曲家の池辺晋一郎氏。「池辺晋一郎が…ひらく」4日にわたるコンサート/イヴェントが予定されている。

僕自身もエレキ・ギターで参加させてもらうのは9月2日の「ジャズ、エレキ、そして古稀」。モダンでありつつ古き良きジャズのお祭り感満載のリーバーマンによる《ジャズバンドと管弦楽のための協奏曲》、スティーヴ・ヴァイの初演が今や伝説となっている野平一郎作の《炎の弦》、そして池辺先生の古稀を祝うべく集った作曲家たちによる新作管弦楽。ひとりだけでも新作初演が充分一夜のプログラムの目玉となりそうなお名前がなんと7人!!  ジャズやワールドミュージックにも精通したメンバーなだけに、東京の音楽のメルティングポットぶりが都響の素晴らしい演奏で体感できる!  と、いやが応にも期待が高まってしまう。

僕が《炎の弦》に挑戦しようと決めたのは2つの理由からです。それは、スティーヴ・ヴァイ氏の2つのヴァージョンとデヴィッド・タネンバウム氏の録音を聞き、スコアを読ませていただいて、日本人のギタリストである僕なりのアプローチの仕方が残されていて、まだ偉大な2人の先輩たちの演奏によってもあてられていない光がこの作品のなかに見いだせるのではないだろうか、と感じたこと、そして、昨年野平一郎さんの指揮で伊左治直さんのコンチェルトを初演した際に、「若い頃はハービー・ハンコックが大好きで、ああなりたいと思っていた」というお話を野平さんからうかがったことです。練習とスコアの理解は厳しいものですが、すでにこの《炎の弦》というコンチェルトの疾走感に溢れたカッコよさと幻想的な美しさのとりこになりつつあります。是非皆さんにもお聴きいただきたいです。

9月6日には、「インプロヴィゼーション&ダンス」と題し、様々な国籍のインプロヴァイザーたちと日本のダンサーとの一夜限りのコラボレーション。個人的にはウードの常味さん、ヴァイオリンの太田さん、そしてハーディさんがパーカッション、というだけで聴いてみたくなってしまう。

9月8日は「リゲティを消化しよう!」。精鋭ピアニストたちの競演で、リゲティの世界観を代表するとも言える《ピアノのためのエチュード》を全曲聴くことができる。ジェルジ・リゲティは、ハンガリーの作曲家でありながら、バルトークはもちろん、スカルラッティ、シューマン、ショパン、ドビュッシーといったピアニズムの伝統と、ポリリズムに溢れたアフリカの音楽にインスピレーションを得た、コスモポリタンな作曲家。池辺氏が「敢えて現代音楽専門ではないピアニストを選んだ」と、話すのも、セロニアス・モンクとビル・エヴァンスへの敬愛を公言するリゲティにはうってつけだと思う。

池辺氏が長年実現を夢見て来た俳優とオーケストラのための作品、トム・ストッパード(劇作家)とアンドレ・プレヴィン(作曲家)による「良い子にご褒美」は9月10日。70年代、冷戦下のソビエト連邦を舞台に、政治思想犯として投獄された男と、頭の中に一団のオーケストラがあるという妄想で収容された男を中心に描かれるストーリーは、「今だからこそ自由の弾圧をテーマに」、というメッセージだ。すべてのプログラムに「挑戦」と「越境」が含まれている、という池辺氏。古来から大陸の文化を吸収し、保存し、熟成させることで独自の文化をもった日本の今日の姿を探求し、海を渡って「越境」した音や色彩が混ざりあって生まれた芸術を世界に向けて発信すること。その「挑戦」を、もっとも体現している芸術家が、池辺晋一郎さんという作曲家なのです。

長年続いて来た伝統のシリーズも健在だ。まずサントリーホール国際作曲家委嘱シリーズには、監修者に就任した細川俊夫氏の作品を集めたコンサートが、弦楽四重奏(9月3日)、管弦楽(9月5日)と2夜にわたって開催される。あらためて言うまでもないけれど、現代のヨーロッパで、武満徹以降もっとも「日本的な美」を象徴し、絶賛を浴びつづける細川氏の音楽を、懐かしい風景に出逢うような、あるいは現代に息づくべく研ぎすまされ、深化した伝統文化に触れるような興味と好奇心をもって、再体験する歓びは待ち遠しい。

『サントリー芸術財団  サマーフェスティバル2013』

会場:サントリーホール
http://www.suntorysummer.com

ザ・プロデューサー・シリーズ
池辺晋一郎がひらく


『ジャズ、エレキ、そして古稀』
9/2(月)19:00開演 大ホール 演奏:杉山洋一(指揮)鈴木大介(eg)角田健一ビッグバンド 東京都交響楽団
『インプロヴィゼーション×ダンス』
9/6(金)19:00開演 ブルーローズ 演奏:常味裕司(oud)太田惠資(vn)本篠秀五郎(三味線)紫竹芳之(笛)クリストファー・ハーディ(perc, ds)フレデリック・ヴィノエ(P, key)ダンス:白井さち子、鈴木美奈子、田村裕子 他
『リゲティを消化しよう!─3人のピアニスト』
9/8(日)15:30開演 ブルーローズ 演奏:菊地裕介、金子三勇士、 泊真美子(P)
『演劇とオーケストラが出会うとき』
9/10(火)19:00開演 大ホール
ストッパード×プレヴィン『良い子にご褒美』(1976)
村田元史(台本翻訳・演出)飯森範親(指揮)出演:劇団 昴、東京交響楽団

サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No.36
テーマ作曲家〈細川俊夫〉

9/3(火)19:00 ブルーローズ 演奏:ディオティマ弦楽四重奏団
9/5(木)19:00 大ホール 演奏:準・メルクル(指揮)バーバラ・ハンニガン(S・指揮)ジェロエン・ベルヴェルツ(tp)多井智紀(vc)東京フィルハーモニー交響楽団

サントリーホール第23回芥川作曲賞選考演奏会
9/1(日)15:00開演 大ホール

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