あっぱれなまでの一貫性。嘘みたいに変わらない8年ぶりの新作。
WarpとSkamのダブルネームでリリースされたファースト・アルバム『Music Has the Right to Children』(1998年)は、2000年前後に一気に広まったエレクトロニカの先鞭となる作品とされてはいるものの、リアルタイムで聴いていた僕の印象としては、決して新しさを感じさせる類のものではなかった。オウテカの別名義ゲスコムやボラといった他のSkam勢や、マウズ・オン・マーズをはじめとするケルン勢、フェネスやファーマーズ・マニュアルらを擁するMegoのラップトップ・アーティストらが先鋭さを追求していたのに対して、明らかに別な方向を目指しており、アブストラクトなダウンテンポをより抒情的に、よりエモーショナルに仕上げた、懐かしさを感じさせる音楽という認識だった。その後にリリースされた2枚の作品も、多少の変化は認められるが基本的には同じ路線である。ボーズ・オブ・カナダは、トレンドと関係ないところで、一貫して同じ傾向の音楽を作り続けてきたのだ。
さて、今回の新作『トゥモローズ・ ハーヴェスト』である。リリースを巡る、変わったプロモーションの数々は本当に刺激的だった。レコードショップやラジオ局、ファンサイトを巻き込んだ壮大なミステリーにはとても興奮したし、媒体関係者に届いたA2サイズのプレスリリースにも仰天した。しかし何より、そうした仕掛けの果てに届いた8年ぶりの新作が、何ひとつ変わっていない音楽だったことに驚いてしまった。これは90年代後半にストックしていた未発表曲集ですと言われても疑うことはないだろう。荒涼としていて、ノスタルジックで、静かに大きなドラマを描いていくさまは、まさにボーズ・オブ・カナダが作る音楽で、そのブレのなさに感心するほかない。彼らのアートフォームは15年後も続いているよ、と98年当時の自分に教えても絶対に信じないだろうな、なんて考える。