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ディスコロヒア・レーベル「アジア三部作」

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/09/10   15:21
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:篠原裕治

これがレコード学。
南洋に咲いた知られざるポップ・ヒストリーを解き明かせ!

昨年までオフィス・サンビーニャの社長を務め、ライス・レコードを主宰していた田中勝則さんがフリーランスとなって新たに始動させたレーベル、ディスコロヒア(「レコード学」の意)。田中さんが「アジア三部作」と呼ぶ最初の3作品が出揃ったので、まとめて紹介する。

まずは『インドネシア音楽歴史物語』。以前に田中さんが編集した『クロンチョン歴史物語』はクロンチョンに絞った選曲だったが、今回は様々なジャンルを横断しインドネシア音楽の多様性を提示することで、この国の音楽の全体像を浮かび上がらせる。クロンチョンはもちろん、伝統的な曲からジャズ、ラテン、ロックまで、2枚のディスクに50曲を詰め込んだ労作。インドネシアがまだ植民地だった20年代にはじまり、独立直後の50年代までの音源を中心に収録している。

続いてはネティの『いにしえのクロンチョン』。ネティはクロンチョンの歴史を語る上で欠かすことのできない名歌手だが、本国でもまったく復刻が進んでいないため、こうして全盛期の録音がまとめて聴けるのは快挙だ。優雅で気品ある歌声が存分に堪能できる。ヒーリング効果も抜群の一枚。

最後はサローマの『ポリネシア・マンボ〜南海の国際都市歌謡』。マレーシアの国民的歌手として知られるサローマだが、ここに収められたのは最初期の50〜60年代の録音で、すべてマレーシアという国家が成立する以前、シンガポールを活動の拠点としていたころのものだ。ラテンやジャズなど、国際都市らしい開かれた音楽性にも惹かれるが、可憐さと妖艶さ、そして巧さを併せもったサローマの歌の素晴らしさに驚かされる。

以上のように3作品とも申し分のない仕上がりだが、それに負けず劣らずすごいのが詳細を極めた解説だ。これをまとめれば一冊の研究書になってしまいそうな質とヴォリューム。まさにレーベル名の「レコード学」に偽りなし。次回以降のリリースにも大いに期待が高まる。