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ウォン・カーウァイ監督&製作7タイトル同時発売

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/09/10   16:00
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:高野直人(秋葉原店)

ファンのみなさん! 最新作『グランド・マスター』を観て、
90年代作品からまた新たな発見しましょうよ!

『恋する惑星』

「クエンティン・タランティーノ? 忘れっちまえ、そんな名前! いまはウォン・カーウァイの時代だ!!」というヴィレッジ・ヴォイスの言葉が画面いっぱいに映し出される。夜の舗道にハイヒール! 飛行機! そのタイミングでフェイ・ウォンの《夢中人》が流れる! ショート・カットのフェイ・ウォン登場!…95年公開、単館系の上映ながら大ヒットを記録したウォン・カーウァイの『恋する惑星』の予告編は、このようにして始まる。まず出てくる男優や女優たちの豪華なこと。魅力的なこと。クリストファー・ドイルの手持ちカメラの躍動感と即興演出。村上春樹を思わせる台詞まわしや固有名詞。香港映画といってもカンフーでもなければ、香港ノワールでもコテコテなコメディでもない。奇妙な登場人物たちの一風変わったお洒落なラヴ・ストーリーとして、本当にカーウァイの時代が来たことを当時大学生の小生は確信したのだった。

それから18年がすぎ、カーウァイの最新作『グランド・マスター』が公開された。カーウァイは巨匠として今も世界の第一線で活躍し続けている。今回、『恋する惑星』から『花様年華』までの作品群が再発に際し(DVDは勿論、初ブルーレイ化の快挙!)、今回あらためて『恋する惑星』を見た。まずは画質が最高であった! そして、初見と変わらぬ重慶森林の住人たち! ショート・カットのフェイ・ウォンばかりに目が行きがちだが、ブリーフ一丁のトニー・レオンというのはどうだ!

カーウァイは映像表現以上に、役者第一であることを再認識した(『グランド・マスター』のチャン・ツィイーの涙を思い出そう)。そして、最新作まで一貫しているのが、登場人物が「かつてあったもの」に思いを馳せているという点だ。思いを馳せることの甘美さと孤独。その感情は、『恋する惑星』のように登場人物が複数登場しても、なんら変わることはない。物理的な距離が縮まれば縮まるほど、露になる「お一人様」たち。そんな「お一人様」同士の出会いにあらためて注目してみると、一見ハッピーエンドのようなフェイ・ウォンとトニー・レオンの再会シーンにこめられたほろ苦さにあらためて気づいたりするだろう。

『花様年華』

『恋する惑星』と姉妹編的性格を持つ『天使の涙』の2作は、カーウァイのフィルモグラフィーで考えるならば、ファッション性の部分で代表作と言うよりむしろ異色作と言うべきだろうか。中国返還前の香港を記録する(「かつてあったもの」になるだろう香港の「いま」に思いを馳せている)部分が野蛮なパワーに溢れたこの2作以降、カーウァイの映画は抑制された語りの中で映画の色気を漂わすように変化していき『花様年華』で一つの頂点を極める。今回のリリースで、世界的なブームの到来から一度目の頂点を極めたところまでが揃うこととなる。

最後に今回のソフト化に際して特記事項を上げておこう。『ブエノスアイレス』はファン必見の『摂氏零度』というドキュメンタリーが入っているのが嬉しい。『楽園の瑕』は、正確には『楽園の瑕 終極版』というタイトルであり、ソフト化が初となる。終極版とは、難産を極めた『楽園の瑕』を制作会社倒産後の08年にカーウァイが再編集したバージョンで、フランキー・チェンの音楽をヨーヨー・マーに置き換えたり、亡くなったレスリー・チャンの部分を増やしたり、オープニングとエンディングを変更したりと、カーウァイ・ファンにとっては今回のソフト化で何よりも見なければならない作品となるだろう。

更に、カーウァイの関連映画として『楽園の瑕』製作の裏で作られたセルフ・パロディ映画『大英雄』(念願の広東語版です!)とプロデュース作品『初恋』までもがDVD化という大判振る舞い!

ゼロ年代以降のカーウァイを踏まえて見る90年代カーウァイ! 再発見へと誘うまたとない機会。是非お見逃しなく!

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