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『Pierre Boulez - Complete Works』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/09/17   18:00
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:小沼純一 音楽・文芸批評家/早稲田大学教授


WORK IN PROGRESS

PierreBoulez_J

先日、YCAM(山口情報芸術センター)でおこなわれたイヴェント、「爆クラ(爆音クラシック)」で、湯山玲子にむけ、坂本龍一は《ル・マルトー・サン・メートル》の部分と、《マラルメの肖像》の冒頭をかけつつ、ピエール・ブーレーズの作品や指揮に衝撃を受けたこと、ことしこの人物が88歳であること、そして 「全作品」がボックスとして発売されたばかりであること語り、さらに「こういうものをリリースしてしまうと……」と余韻を残したものだった。

たしかに13枚組のボックスを手にとると感慨を抱かずにはいることは難しい。ブーレーズ自身がおそらく現時点で最良とみなす演奏がここにはあるだろうこともわかる。だが、ほんとうにそうか?

作家にしても作曲家にしても、自分がセレクションした選集なり全集は、たとえ「全集」と名づけられてはいてもこぼれおちるものはいくらもある。創作家はまだ現役だ。本人が省きたい、ここには含めたくないという基準が提示され、それゆえに創作家としての意志は明瞭に伝わる。その意志は尊重したい、と思う。と同時に、だ。いや、そのコントロールをはずれるものがあるのがやはり創作家であり、作品だろう、というおもいもつよくある。

現にこの作品集、ごく初期の電子音楽作品や《力への詩》、あるいは友人・知人のアニヴァーサリーのために書かれた小品などは収めていない。逆に、ブーレーズといったら、書き換えや改変が有名だが、ある作品の何年版を録音と、特定のヴァージョンを収めているのも特徴として、ある。《マルトー》の記念碑的と看做されている録音とか、あるいは、初録音のもの、さらに、レーベルをまたがって──universalからina、 erato、 sony、 harmonia mundi、 naïve、 ほか──音源を集大成し、さらに1枚にはクロード・サミュエルとの対話も収める。万全だ。万全なのだが、おもてにはたしかにŒUVRES COMPLÈTES / COMPLETE WORKSと表示されているのに、ボックスの裏には「WORK IN PROGRESS」とさりげなく記されているのことに、わたしは、やるなぁ、と、この老獪な人物にひとりだけ大笑いしながら、拍手を送ったのだったが。



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