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Music Weeks in TOKYO 2013 プラチナ・シリーズ

カテゴリ
O-CHA-NO-MA PREVIEW
公開
2013/10/11   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text:青澤隆明


MusicWeeks
              ©鍋島徳恭                   ©Marco Borggreve                  



ベートーヴェンの自由を果敢に生きる〜堤剛&ルドルフ・ブッフビンダー

歳月は人を自由にする。経験を積み重ねながら、いつしかそこからも解き放たれるように、夢の広がりのなかを人はもういちど力強く泳ぎ始める。その自由が、自信からくるものか、諦観なのか、歓喜なのか、綱渡りの冒険なのか、それはわからない。ぜんぶを引き受けるようにして立つ舞台は、いつも新しい海原である。

もちろんすべては、よく生きていればこその話だ。東京とウィーンが世界に誇る名匠、チェロの堤剛とピアノのルドルフ・ブッフビンダーの初めての共演は、長年の研鑽と豊穣な経験を糧として、その先に拓かれつつあるそれぞれの大らかな自由をも輝かしく謳い上げることになるだろう。この秋、東京文化会館小ホールのしっくりとした空間で語られるのはベートーヴェンのデュオ・ソナタと変奏曲のツィクルスという、まさしく二人の充実に相応しい曲目である。二日間のツィクルスは、初期のop.5と後期創作に先立つop.102を各々両日に振り分けているように、名手に触発されて独奏楽器としてのチェロの魅力を開拓したベートーヴェンのこの分野の創作を、日ごとに辿れる旅ともなっている。

それは20代半ばからの探索で、最後の2つのソナタを書いたときベートーヴェンは44歳だった。そして年代も近い名手二人、堤剛はいま71歳、ブッフビンダーは66歳。ますます旺盛なそれぞれの演奏活動は、年月の深みや経験の広がりとともに、たんなる老いとは違う明朗な自由を獲得しているようにみえる。

謙虚で誠実な人柄ゆえだろう、堤剛は演奏家として自らに厳しく、堅い芯をもって、つねに正面から全力で音楽に取り組んできた。毎回の演奏に確実な燃焼を聴かせるが、そこには若き日にみたというカザルスの背中のように、大きな音楽への献身を物語るものがある。そして、大人の成熟とともに、そこにはやんちゃとも言えそうな少年の探険心がまっすぐに貫かれている。近年の演奏はいっそう無邪気に自由さを増して、未踏の領域を歩んでいるようにもみえる。マスタークラスでは、教育者としての使命と情熱も伝えられる。ルドルフ・ブッフビンダーの近年の進境は、王道の威厳、演奏者の愉楽、研究者の確信、そのいずれをも大らかに充たしながら、いま彼しか手にしていない自由をいきいきと謳い上げている。30年ぶりにベートーヴェンのソナタ全集を再録音したのが2010〜11年。ウィーンの伝統を担う自信が深まるいっぽう、肩肘張ったアグレッシヴさからは精神的に解放されたのか、伸びやかな感情表現や即興的な清新さが息づく。

大家にして少年、純粋な音楽家どうしの出会いだ。二人の心身の真剣勝負は、ベートーヴェンにこそ相応しい。かの人の生の燃焼は決して止まることがなかった。



LIVE INFORMATION


『Music Weeks inTOKYO 2013 プラチナ・シリーズ』
堤剛&ルドルフ・ブッフビンダー
“ベートーヴェン チェロ・ソナタ ツィクルス”

○第3回 11/7(木)19:00開演
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第1番 ヘ長調 op.5-1、第4番 ハ長調 op.102-1、第3番 イ長調 op.69 ほか
○第4回 11/10(日) 14:00開演
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第2番 ト短調 op5-2、第5番 ニ長調 op.102-2 ほか
会場:東京文化会館 小ホール

『Music Weeks in TOKYO 2013 ミュージック・エデュケーション・プログラム』 〈コラボレーション・プログラム〉
堤 剛マスタークラス(チェロコース)
○11/3(日) 10:30開講(13:30終了予定)
会場:東京文化会館 小ホール

http://www.t-bunka.jp/