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児玉桃『ラヴェル、武満、メシアン: ピアノ作品集』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/10/16   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text:小沼純一 音楽・文芸批評家/早稲田大学教授


日本人クラシック・ピアニスト初のECM録音

児玉桃子_J

トゥリルやトレモロを多用したピアノ書法と、フルートの奏でるわずかなメロディ以外はほとんど音響発生の場となるオーケストラ。そして数回、圧倒的なアタックとその残響が時間=空間に満ちる無駄のない音楽。

本名徹次指揮ベトナム国立交響楽団と共演した児玉桃による、パリ在住・ベトナムはハノイ出身の作曲家、グエン・ティエン・ダオによるピアノ協奏曲《コンチェルト・ヴィーヴォ》世界初演である。

あるピアニストを想定して作曲されながら、演奏不可能としてそのままになっていた本作品は、児玉桃によって、ベトナム/日本/フランスの三地点が交差する音楽の誕生を可能にしたのだった。こうした演奏家に作品が手掛けられることの幸福を、73歳の作曲家はきっと全身で感じていたにちがいない。

児玉桃はECMでアルバムをリリースする。クラシックとしてはこの列島からは初。聴いている人はちゃんと聴いている、さすがマンフレート・アイヒャー。

プログラムはラヴェルから武満徹、メシアン。《鏡》には大洋、鳥、谷、といった視覚的な、それでいて時間とともにある動きそのもののイメージが、武満やメシアンへとつながってゆく。的確なピアニズムとともに、そうか、こういうペダリングでこういうひびき、こういう空間が生みだされるのかと、格別奇を衒うわけではないのに、ひとつひとつに耳が新鮮なよろこびを味わう演奏。よく知った音楽が、新たな演奏によって、異なったものを感じさせ、事件としてたちあらわれる。

12月にはオペラシティでのリサイタルでは、バッハ、細川俊夫、ドビュッシーと、どれもある種の「練習曲」として発想されたプログラムが予定されている。「練習曲」ゆえの身体的なテクニックとともに、切り離すことのできない諸々の困難とそこに開かれまた拓かれた可能性が、わたしを誘惑し、うずうずせずにはいない。

そう、いま、いったい誰が、ドビュッシー《練習曲集》を、全身全霊で、聴きに行きたいと期待させてくれるだろう。児玉桃のリサイタルにむけ、わたしはまた、ECMのアルバムをリセットしてしまう。



LIVE INFORMATION


『児玉 桃 ピアノリサイタル』
○12/6(金)19:00開演
J.S.バッハ:イタリア風協奏曲 ヘ長調 BWV971/細川俊夫:エチュード I~VI(2011~2013)(III~VI:ルツェルン音楽祭、ウィグモアホール、東京オペラシティ文化財団共同委嘱作品・日本初演)/ドビュッシー:12の練習曲
会場:東京オペラシティ コンサートホール
http://www.operacity.jp/

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