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けもの『Le Kemono Intoxique』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/10/22   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 土佐有明


ジャズ・ヴォーカルの新しいオルタナティヴ。才女率いる注目のユニット。

けもの_J

UAやカヒミ・カリィや小島麻由美など、数多くの女性ヴォーカリストのプロデュース/サポートを務めてきた菊地成孔が、またしても才気溢れる歌姫をバックアップし、名盤を世に送り出した。ヴォーカリストの青羊(あめ)のソロ・ユニット、けものの最新作『LE KEMONO INTOXIQUE(ル・ケモノ・アントクシーク)』がそれだ。菊地は作詞、サックス、ヴォーカル、トラックメイキング、カヴァーの選曲、スタイリング、アートワークまで担当し、このユニットの予期せぬポテンシャルを引き出している。

けものの音楽的なベースはジャズ。冒頭の《MY FOOLISH HEART》では抑制の効いたピアノに合わせて、穏やかで芳醇なヴォーカルが響き渡る。……のだが、2曲目の《アンビエント・ドライヴァー》はひんやりとした狂気が滲むアヴァンポップで、以降の曲も単なるBGMとして聞き流せないささくれや棘が随所に感じられる。マーヴィン・ゲイ《What's Going on》にも似たイントロの《すごいエンジン》は夢幻的な歌詞とのマッチングがいびつだし、菊地が書いたテキストを青羊がリーディングする《魚になるまで》はマジック・リアリズム文学のような趣。まっすぐにスウィングする曲もあるし、演奏のニュアンスはムーディーなのだが、清澄な歌声の内奥からは不穏で怪しく禍々しい匂いが立ち込めてくる。サックスの他にキーボードも弾く菊地の演奏もひりついた感触で、時空を歪めるような効果をもたらしている。

白眉は、菊地と青羊のデュエットによるマイケル・ジャクソン《BEAT IT》のレゲエ調カヴァー。ジャズの巨人たちがスタンダードナンバーを数々の名演で料理してきたように、けものはこのヒットチューンをコード展開から大きく崩し、大胆不敵に再構築して見せている。それも、単に意表を突くだけじゃなく、原曲とは異なる位相で、ひとつの優れたポップ・ソングとして蘇生させている。近年稀に見る名カヴァーと言えるだろう。



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