古くて新しい能の真髄をじっくり味わう
本年、2013年は、能の大成者世阿弥(ぜあみ)の生誕650年、父親の観阿弥(かんあみ)生誕680年にあたる記念の年である。世阿弥や能にちなんだ展覧会や講演会など各地で記念行事が開催され、なかなかの賑わいである。この6枚組DVDは、NHKが過去に放映した映像の中から、観阿弥関係の能三番(1巻・2巻)と世阿弥の能五番(3巻~6巻)を集めたタイムリーな作品集である。
能と言えば、高尚で難解なイメージがあるが、確かに一度舞台を見てすぐに魅力がわかるような生やさしい劇ではない。役者はあまり動かず、動いたとしても極端にゆっくりである。そのうえ、縁語や掛詞を駆使した詩のような台本の意味が聞き取りにくい。だが、ドラマとしての能は実に面白い。表面的な静けさの裏に熱い感情が流れているのだ。特にここに収録した作品は傑作揃いである。二人の男に同時に求婚された乙女が入水自殺した後、地獄に堕ちて苦しむ《求塚》(もとめづか)や、愛を拒絶した小野小町が死後も男の亡魂に祟られる《通小町》(かよいこまち)など、壮絶な「愛の妄執」を描く作品もあれば、美少年の説経僧が人買から子供を救うスリリングな《自然居士》、身分違いの恋人をひたすら待ち続けて愛を獲得したシンデレラストーリー風な《班女》(はんじょ)、戦いを避けて入水した武人の霊が妻の夢に現れて心を打ち明ける《清経》(きよつね)などもあり、中世の人々の喜びや悲しみがダイレクトに伝わってくる。
このDVDは、数曲に解説や演者の談話を加え、基本的に字幕付きなので、ドラマとしての能を本格的に知りたい人には、うってつけである。言葉と動作の関係、面の表情が微妙に変化する様、豪華な衣裳の細部をじっくり味わうのにも適している。また、厳島神社で上演した《融》(とおる)は、満月が海水を照らす水上舞台の演奏が美しい。
放映年月日は、1961年~2013年と幅広く、友枝喜久夫(ともえだ・きくお)や安福春雄(やすふく・はるお)を始めとする、故人の名演奏を見られるのも嬉しい。