©Masahiro Hasunuma
第6回を迎える演劇界の一大イヴェント、「物語を旅する」が今年のテーマ
目指すは新しい価値の創造を発信してゆく開かれた舞台芸術の祭典!!
東京から世界への文化発信を目的とするプロジェクト
第6回をかぞえる舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー 13」(F/T13)。毎年秋から冬にかけて、池袋方面に足をはこぶ回数が増えるという方も多いことだろう。舞台芸術の新たな価値の創造と、東京から世界への文化発信を目的とするプロジェクトとして、国内外で注目を集める舞台表現の製作・上演を多数手がけてきた。2011年以降は、「私たちは何を語ることができるのか?」(2011)、「ことばの彼方へ」(2012)をコンセプトとして、東日本大震災という未曾有の〈出来事〉に応答する演劇的試みのための実験場を提供している。
今年は「物語を旅する」をテーマに、11月9日(土)から12月8日(日)までの30日間にわたって開催される。社会や共同体、そこに生きる個人を支えてきた物語の崩壊を経験した震災から約2年半が経った現在、物語るという行為がどのように可能でありうるのかを再検討する試みとして企画され、11の国と地域から30演目の上演を予定している。F/Tならではの新しい価値を創造・発信する「主催プログラム」では、古典戯曲や神話のアダプテーション作品、新たな語りの形式の創出をとおして時代や社会状況に介入する作品など、多角的な切り口で、震災後における物語の生成の可能性を考えるプログラムが用意されている。
〈出来事〉の記憶と物語
昨年のF/T で3作品が連続上演され、話題になったことが記憶に新しいオーストリア出身の作家エルフリーデ・イェリネク。『光のない。』がウェブサイトで発表されたのは2011年12月。8月末に書き上げて、9月に初演。(ウェブ公開より前に初演)『光のない。』は本イベントの重要な柱を構成している。今年はシリーズ最新作『光のない。(プロローグ?)』を、現代美術家の小沢剛氏、遊園地再生事業団の宮沢章夫氏が演出する。小沢氏はイェリネクを観る「展覧会」をコンセプトに、テキスト、絵画、映像、インスタレーションを用いた空間を立ち上げる。宮沢氏は能の形式を媒介に、「起こってしまったこと」(過去)と「それを語ること」(現在)の関係性を探る。
ドラマ演劇への問いかけを内包した実験的作品で知られるマレビトの会の松田正隆氏と、維新派の松本雄吉氏が共同で製作する『石のような水』も、震災後の世界に表現を与える試みである。『ストーカー』や『サクリファイス』で核の脅威を描いた映画監督アンドレイ・タルコフスキーの作品をモチーフに、松田氏が書き下ろした新作を松本氏の演出で上演する。松田氏は『ヒロシマ―ナガサキ』シリーズでも、被爆した都市をテーマに、〈出来事〉の記憶がナショナルな物語に回収されることに抵抗し、他者との分有の可能性に開かれたかたちでいかに語りうるかを追究してきた。今回の新作にも期待したい。
ドキュメンタリー演劇的な手法で、東京の現在をあぶり出す企画も見逃せない。昨年、イェリネクの『光のないⅡ』を演出したPort B高山明氏は、今年は『東京ヘテロトピア』と題し、都市に潜在する物語を可視化するツアー・パフォーマンスを行なう。観客はガイドブックとラジオを手に、さまざまな公共空間を訪れ、ラジオのスイッチを入れる。聞こえてくるのは「旅」と「翻訳」をテーマに、アジア各国からの留学生、管啓次郎氏、小野正嗣氏、温又柔氏、木村友祐氏、林立騎氏などと共同で作られた物語。観客の数だけ異なる体験が生まれ、劇場や観客という概念に揺さぶりをかける。
ドキュメンタリー演劇の手法を用いた独創的な作品で知られるドイツのパフォーマンス集団リミニ・プロトコルは、2008年以降世界各地で製作され、注目を集めている100%シリーズの東京版『100%トーキョー』を発表する。東京の人口統計比率に基づいて100人の市民を集め、舞台上で「Yes/Noアンケート」を実施するという作品。無機質な統計上の数字が、移動し語るべき言葉や声をもった生身の存在として可視化される。舞台表現でありながら、統計学の講義のようでもある。青柳拓次氏を中心に、公演のために特別に編成されたバンドも登場が予定されている。
記憶の分有と、他者への想像力
この原稿を執筆中の9月8日現在、2020年夏季五輪の開催都市が東京に決定した。今後、震災を情動的に搾取したり、虚偽や沈黙で真実を覆い隠して「国家の物語」に回収する動きがますます加速することが予想されるが、文化・芸術の想像力はいかにそれに抵抗しうるだろう。〈出来事〉を「国家の物語」から解放し、ナショナリズムや同調圧力に陥ることなく、記憶を他者と分有するための語りをどのように実現できるかが試されている。
それについて考えるための手がかりを与えてくれるのではないかと個人的にも期待を寄せているのは、1883年にクラカタウ山で起こった大噴火と津波被害に着想を得たシアタースタジオ・インドネシアの野外演劇『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』だ。地震や火山活動が地球規模で活発化している現在、〈出来事〉の記憶は地球上で暮らす全人類にとってのものとなりうるだろうか。昨年のF/Tアワード受賞作『バラバラな生体のバイオナレーション!〜エマージェンシー』での竹を多用したスペクタクルに続き、今年は、池袋西口公園に設置された海や船をイメージした竹製の野外劇場を舞台に、エネルギッシュなパフォーマンスが繰り広げられる。
演劇、映像、インスタレーションなど多彩な表現で、アラブ世界の政治・社会的現状に応答しているレバノン出身のアーティスト、ラビア・ムルエ氏の作品も楽しみだ。市民革命とインターネットや携帯電話といったメディアの関係性をテーマにした『33rpmと数秒間』、自伝的題材をもとに歴史=物語にアプローチする『雲に乗って』が上演される。また、ドクメンタ13で話題を集めた『ピクセル化された革命』の映像上映も見逃せない。シリア内戦中にYouTubeに多数投稿された「ダブル・シューティング」の映像――銃をかまえたスナイパーと携帯電話で撮影するカメラマンが対峙する映像についてのレクチャー・パフォーマンスの映像作品。匿名の撮影者の生命とひきかえに得られた映像断片を分析するアーティストの知的で緻密な手つきは、観客に問いや疑問を投げかけ、批判的思考をうながすだろう。
期間中は、いとうせいこう氏、宮沢章夫氏、椿昇氏らによる「オープニング・イベント」、近藤良平氏、三浦康嗣氏、古家優里氏、矢内原美邦氏らが考案する一般参加型の群衆パフォーマンス「F/Tモブ・スペシャル」も開催され、池袋界隈は祝祭的空気に包まれる。そこであなたはどんな物語に耳を傾けるだろう。あらゆる物語行為は聞き手を必要とする。〈出来事〉の記憶が誰かと共有されるために。さまざまな声、複数の物語が交錯する場を体感しよう。
EVENT INFORMATION
フェスティバル/トーキョー 13
11/9(土)〜12/8(日)
会場:東京芸術劇場/あうるすぽっと/にしすがも創造舎/シアターグリーン/アサヒ・アートスクエア/池袋西口公園
http://festival-tokyo.jp/
●いとうせいこう×宮沢章夫、椿昇、F/Tモブの参加アーティストたちがF/T13の開幕を盛り上げる!
11/9(日) F/T13オープニング・イベント
会場:東京芸術劇場、池袋西口公園ほか 12:00〜
演劇・世界初演 11/9(土)〜13(水)
『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』
シアタースタジオ・インドネシア
演出:ナンダン・アラデア
演劇・世界初演 11/9(土)〜12/8(日)
『東京ヘテロトピア』Port B
構成・演出:高山明
演劇・世界初演11/9(土)〜24(日)
『四谷雑談集』+『四家の怪談』
中野成樹、長島 確
演劇 11/9(土)〜13(水)
『東海道四谷怪談─通し上演─』
木ノ下歌舞伎
監修・補綴:木ノ下裕一
演出:杉原邦生
作:鶴屋南北
演劇・日本初演
ラビア・ムルエ連続上演
『33rpmと数秒間』
作・演出:リナ・サーネー、ラビア・ムルエ
演劇・日本初演 11/16(土)〜17(日)
ラビア・ムルエ連続上演『雲に乗って』
作・演出:ラビア・ムルエ
共同演出:サルマド・ルイス
映像・日本初上映 11/14(木)〜17(日)
『ピクセル化された革命』
監督:ラビア・ムルエ
演劇 11/17(日)〜25(月)
『永い遠足』 サンプル
作・演出:松井周
美術・演劇 日本初演 11/21(木)〜24(日)
F/T13イェリネク連続上演
『光のない。(プロローグ?)』
演出・美術:小沢 剛
美術・演劇 日本初演 11/30(土)〜12/8(日)
F/T13イェリネク連続上演
『光のない。(プロローグ?)』
演出:宮沢章夫
演劇 11/28(木)〜12/8(日)
『現在地』チェルフィッチュ
作・演出:岡田利規
演劇・東京版初演 11/29(金)〜12/1(日)
『100% トーキョー』リミニ・プロトコル
作・構成:リミニ・プロトコル(ヘルガルド・ハウグ、シュテファン・ケーギ、ダニエル・ヴェッツェル)
演出:ダニエル・ヴェッツェル
演劇・日本初演 11/29(金)〜12/1(日)
『The Coming Storm─嵐が来た』
フォースド・エンタテインメント
演出:ティム・エッチェルス
演劇 12/5(木)〜8(日)
『石のような水』
作:松田正隆
演出・美術:松本雄吉
演劇・日本初演 12/6(金)〜8(日)
『ガネーシャ VS. 第三帝国』
バック・トゥ・バック・シアター
演出:ブルース・グラッドウィン
シンポジウム
F/Tシンポジウム