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Vijay Iyer&Mike Ladd 『Holding It Down: The Veterans' Dreams Project』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/11/04   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 難波店 稲田利之


ジャズとスポークン・ワードで暴く、9.11のビフォー/アフター。ついに最終章!

VijayIyer&MikeLadd_J

ジャズ・ピアニスト、ヴィジェイ・アイヤーとスポークン・ワード詩人マイク・ラッドのコラボレーションは、2003年の『In What Language?』に始まり、2006年の『Still Life With Commentater』を経て、今作の『Holding It Down』に至った。

乗り換えで降り立ったニューヨークのJFK空港で米国移民局によって誤って拘束され、香港に逆送されたイラン人映像作家の実話を基に、9.11以前のハイパーグローバリゼーションの世界を描き出した『In What Language?』、9.11以降戦時下の米国内でCNNなどニュース番組から流され続ける劇場化された情報を24時間休むことなく浴びつづけ、変容していく人々の生活を題材にした『Still Life With Commentator』、そしてイランやアフガニスタンで闘った退役軍人達、なかでも20代を中心とした若き人種的マイノリティの退役軍人達との約3年間に渡るコラボレーションを基に制作されたのが、今作の『Holding It Down』である。実際にイラクやアフガニスタンで従軍した退役軍人2名の音楽家が加わり、アンサンブルはさらに多彩となり、生々しさを増した。

90年代ヒップホップ・シーンの流れから派生した「スポークン・ワード」ムーヴメントで、ヤスミン・ベイ(モス・デフ)、ソウル・ウィリアムスなどとともにシーンに登場したマイク・ラッドの力強いポエットと、ヴィジェイらの生み出すアンビエンスが融合し生み出されるエレクトロ・アコースティックでトランシーなジャズ~ヒップホップ・サウンドは、前2作以上にオーガニックに彩られ、力強くエネルギッシュだ。

9.11を経て現在もなお彼らの生活にその影を落とし続けている戦争と、人種的マイノリティの苦悩と希望を音楽に託したアイヤーとラッドのトリロジーが、ついにここに完結した。



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