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Dani & Debora Gurgel Quarteto『UM』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/11/05   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 麻生雅人


ミナスだけじゃない。活況呈するサンパウロから届いた注目作!

Dani&DeboraGurgelQuarteto_J

ソロでインストルメンタル作品を発表しているピアノ奏者デボラと、サンパウロの新進気鋭の作曲家たちと組んでMPB作品を発表してきたシンガーソングライターのダニ。これまでにも互いの作品に参加し合ったり一緒に舞台に立ってきた親子が、改めて取り組んだクアルテートによる作品だ。ベースとドラムは、2010年に発表された母デボラのソロ作『Debora Gurgel』の演奏陣。まるでデボラのグループがダニを、曲と声で全面的にフィーチャーしたかのようなこのグループの演奏がポップス志向ではなく、ジャズやクラシック音楽寄りになるだろうことは、あらかじめ予想がついていた。

MPBの歌手というより、器楽的に声を操る声楽家としてのダニの個性がこれまで以上に打ち出されているという点では、予想通りの展開だ。ダニのスキャットはデボラのトリオと対等に音楽の駆け引きを楽しんでいる(トリオ+1ではなくクアルテート名義なのも納得がいく)。

しかしこのグループの演奏力や雰囲気、ノリは、予想をはるかに超えて、作編曲家としてのダニの才覚を大きく引き出している。言われなければまず原曲に気づかないほど独特のアレンジで聴かせるマイケル・ジャクソン《ロック・ウイズ・ユー》のカヴァーなど、クリエイティヴィティ溢れる遊びと実験に溢れた演奏が痛快この上ない。

聞けば母デボラの家の大きな居間にはソファーひとつとピアノしかなく、ダニの仲間の若い音楽家が集い、デボラのピアノを中心に、いつも実験と遊びに溢れているという。テレビも観ないで音楽と戯れる日々の、その延長で生まれたかのような本作は、彼らがデボラの居間で音楽と向かい合う中でときどき訪れているであろう、思わずニンマリしたり、目を輝かせたりする特別な瞬間の数々を、僕らにも、作品のそこここで、味わわせてくれる。



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