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監督:石井裕也 原作:三浦しをん『舟を編む』 

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/11/07   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 秋葉原店 高野直人


一見地味な辞書作りのHow toが、見事なエンタテイメントに

舟を編む_J

本屋大賞を受賞した三浦しをんの同名小説の映画化である。それにしても、この映画自体は至って地味である。この映画のクライマックスは辞書完成の打ち上げなのだが、…地味! 地味なシーンなのだが、この映画を見続けたならば、胸が熱くなることはお約束しましょう。外見は地味。でも内側はアツい。地味でアツいが本作の一貫したトーンであり勝因である。

まずは物語が地味でアツい! 主人公の馬締(まじめ)は、学者肌の“本の虫”だが、対人コミュニケーションは最低。そんな変人で厄介者が、辞書編集部に移ったことで、その才能を開花させ辞書を完成させるという15年に及ぶ物語である。言語とは何か? 辞書作りのHow toを見事なエンタメにしつつ、何より現存の価値観ではクズ扱いだった男がなんら自身の価値観を崩さずに成功していく過程のカタルシス!

地味でアツいその2。主役を演じた松田龍平。ハッキリ言って『あまちゃん』で松田が演じたミズタクと近いラインの風貌(勿論メガネ!)。外見は地味、でも内側では情熱に溢れている点でもよく似ている(という訳で萌え苦しんで下さい!)。

松田だけではない。この映画の魅力は脇を固める俳優たちがみな素晴らしいことだ。宮﨑あおい、池脇千鶴、渡辺美佐子、小林薫、加藤剛、鶴見辰吾、八千草薫など年齢的に広がりのあるキャスティング。中でもある意味映画一番の泣かせ役オダギリジョーの素晴らしさを是非御覧頂きたい。

地味でアツいという勝因の一番の功労者はなんと言っても監督石井裕也である。手腕の具体例は先に述べた通りだが、若きインディーズ出身監督がこのようなバジェットの映画を見事に調理している点は特筆に価する。

地味でアツい。最後にその心は辞書であるといったところでお後がよろしいようで。オススメです!