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PROGRESSIVE ROCK LEGEND

カテゴリ
O-CHA-NO-MA PREVIEW
公開
2013/11/07   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text :松山晋也


ヘビーメタルアーミー_A.
ヘヴィ・メタル・アーミー



NEXUS と CRIME 〜J-プログレを開花させたレーベル

日本人によるプログレッシヴ・ロックの梁山泊とも言うべきキングの「NEXUS」「CRiME」に残された大量の作品が紙ジャケット仕様で3ヶ月(9~11月)連続リイシューされる。〈プログレッシヴ・ロック・レジェンド・ペーパー・スリーヴ・コレクション〉なるこの再発シリーズは、一昨年、第1&第2弾として計20タイトル(美狂乱、ケンソー、ノヴェラなど)が発売され、マニアの間で大好評を得たが、今回はその続編として各月10タイトルずつ、計30作品が怒涛のリイシューだ。

日本人の特性や資質と相性がいいためか、この国ではプログレッシヴ・ロックのファンは70年代からずっと一定のコア層を維持し、今でも、ヘヴィ・メタルと共に最も安定した売り上げを見込めるジャンルの一つだ。そしてもちろん、日本人音楽家たちによるJ-プログレも70年代初頭から確固たるシーンを形成してきた。70年代には、ピンク・フロイドやキング・クリムゾン、あるいは現代音楽やフリー・ジャズなどの影響下で、フライドエッグ、ファー・イースト・ファミリー・バンド、四人囃子、コスモス・ファクトリー、マンドレイク、ツトムヤマシタ、マジカル・パワー・マコといった音楽家たちがすぐれた作品を発表したわけだが、プログレの世界的ブームが一段落した70年代末期からは、新月や美狂乱を筆頭に、日本的感性や美意識、様式などによりウェイトを置いた独特なJ-プログレが本格的に開花していった。そうしたシーンの最大の拠点になったのが、キングの「NEXUS」~「CRiME」レーベルである。

マンドレイクの平沢進が結成したPモデルがわかりやすい例だが、最初期のJ-プログレの音楽家たちの多くは、その後パンク~ニュー・ウェイヴやジャズ/フュージョンへと方向転換していったし、一方、90年代以降には、吉田達也に代表されるように多様な前衛音楽の実践者たちによるパロディあるいはオマージュとしてのJ-プログレも盛んになった。しかし「NEXUS」~「CRiME」系のJ-プログレの多くはそういったものとはまたちょっとニュアンスの異なる独自のシーンを形成した。その特徴は、夢幻性や構築性を核にした様式美へのこだわりである。彼らの多くはファンタジーに耽溺し、ヴィジュアルを重視する。それはサウンドや歌詞だけでなく、ジャケットやステージ演出にまで徹底している。だから、言葉本来の意味にこだわるなら「プログレッヴ・ロック」よりも「ファンタジック・ロック」の方がフィットする場合が少なくないわけだが、そういった一種の退嬰性をも飲み下しつつ様式美と技巧性をとことん極めていった点が、逆に「NEXUS」~「CRiME」系のJ-プログレの魅力と強みであり、熱烈なファンを獲得してきた理由でもあろう。

また、あまり指摘されることがないが、X(X JAPAN)やLUNA SEA などから連なるヴィジュアル系ロックの源流の一つとしても、「NEXUS」~「CRiME」系J-プログレは再検証されるべきだろうし、アニメやゲーム音楽との関係の深さについても同様だ。今回出る30タイトル(できれば第1&第2弾の20タイトルも合わせて)をまとめて聴くことにより、日本ロック史のパースペクティヴにおける新しい視点を見出すことも可能だろう。

というわけで、個人的なお勧めを少々。9月発売分では、ジェラルド『アイロニー・オブ・フェイト』。ジェラルドはキーボード奏者の永川敏郎がノヴェラ在籍中の84年に立ち上げたバンドで、このアルバムは91年リリースの3作目(1作目、2作目は一昨年再発)。基本はキーボード中心のシンフォニック・ロックだが、ここではよりハード&メタリックなニュアンスが強まっており、圧倒的演奏技術も含めて、たとえばラッシュとの比較も可能だろう。

10月発売分では、ハットフィールド&ザ・ノースぽい知的ジャズ・ロックをシンフォニック・ロック風に解釈したアイン・ソフの2作目『帽子と野原』(86年作)も面白いが、なんといってもダダ『ダダ』(81年作)に注目。ダダは「ロック・マガジン」の阿木譲が主宰していたヴァニティから78年にレーベル第一弾として『浄』を発売した関西のデュオで、『ダダ』はメジャーからの唯一のアルバム。元々はヴァンゲリス風のシンセ・ユニットとして出発した彼らだが、この2作目では、たとえばトマス・レア&ロバート・レンタルなど英ニュー・ウェイヴ的なニュアンスも感じさせる。メンバーの一人、泉陸奥彦によるソロ・プロジェクト、ケネディの唯一のスタジオ・アルバム『トウィンクリング・ナサ』(86年作)も同時発売だ。

そして11月発売分では、86年発売当時のJ-プログレ・オールスターズとも言うべき夢幻による『レダと白鳥』(オリジナル盤未収録の「亡き王女のためのパヴァーヌ(vocal version)」も追加収録)や、生楽器によるプログレを探求したパッツォ・ファンファーノ・ディ・ムジカの問題作『狂気じみた饒舌家の音楽』(89年)、そしてやはり、マライアのライヴ盤『レッド・パーティ(悪魔の宴)』(82年)あたりか。『レッド・パーティ』は81年3月の渋谷エピキュラスでのライヴ音源で、清水靖晃や笹路正徳、土方隆行などメンバーのソロ作品からも演奏されている。圧倒的演奏力に、今更ながら感嘆。