音楽・ピアノ・ピアニスト。三位一体の世界を探る
ピアノ演奏を楽しむ音楽ファンにとって現代のピアニストたちが奏でる音楽の魅力の一助となる新書が発売される。演奏批評、あるいは音楽家論、そしてインタヴューなど著者自らが書き綴ったものを引用しながら、1人と30人のピアニストにスポットライトを照らし、彼(彼女)らが聴き手に刻み続ける演奏、ピアニストが辿り続ける四諦を解き明かそうとする。
本書は、1960年代から2000年代までを10年ごとに六つの章に分け、その年代に躍進した著者が敬愛する5人のピアニストをそれぞれに選んでいる。ポリーニ、アルゲリッチ、内田光子、ペライア、ゼルキン、ツィメルマン、ポゴレリッチ、グリモー、キーシン、ブレハッチやユジャ・ワン、あるいはシュタイアー、エマール等々。
ピアニストに関して、とかく孤独な存在といわれることがある。その孤独さに向き合い、突き詰め乗り越える。それぞれが辿ってきた(辿る)道、その有り様は様々だが、ピアノを媒体にしてその道を真率に語り繰り拡げる演奏。音楽を体現するものとしての彼らが語るその音楽の魅力のある一面を、音楽と人間とをめぐるノンフィクションとして読み解くこともできる。
巻末にはそれぞれのピアニストの厳選された100タイトルのディスクも紹介されている。本書を座右にその演奏に耳を傾けるのもまた愉しみの一つになるだろう。
なお本書は、著者が私淑するであろうJ.S.バッハの傑作の一つ、《ゴルトベルク変奏曲》に基づき、アリア(主題)と変奏(30)と同じスタイルをとっている。即ち1人+30人。《ゴルトベルク変奏曲》からも察せられるようにアリアにあたるその一人とは、もちろんグレン・グールドその人である。現代のピアニスト、いやピアノ演奏を語る上でも外せない存在ともいえるグールドについて始めと終わりに置く、これもまた心憎いばかりの演出だろう